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『剣遊記U』

第六章 城門の魔獣。

     (4)

「ゆおーーっし! それじゃ行くばぁーーい!」

 

 とにかく荒生田の号令一下。一行はまず、『峠の三本松』とやらを探す道を進路にした。その途中で孝治は友美といっしょに(もち涼子も)、先行している到津を早足で追い駆けた。

 

 小声でそっと、話をするために。

 

「さっき先輩が言うたこつ、そげん気にせんでもよかっちゃけね☻ どうせ三歩も歩けば自分が今言うたカッコええセリフ、みんな忘れる鳥頭{とりあたま}なんやけ♥ でも、おれが言うたことは、きちんと覚えてほしかっちゃけどね✌」

 

 しかし到津は、これに静かに頭を横に振るだけ。柔らかなしゃべり方で、孝治に言葉を返してくれた。

 

「そんなわけにはいかないわや☺ ワタシ、荒生田さんの今の宣言、きっちり胸に収めたあるよ♡」

 

 孝治はくすっと微笑んだ。

 

「やっぱりあんた、生真面目っちゃねぇ☀ それはよかけど、宝探しが成功でも失敗でもとにかく無事に終わったら、ひとつ約束してくれんね♐」

 

「約束……あるか?」

 

 孝治のセリフのとおり、到津がさらに生真面目顔になって、聞き耳を立ててくれた。これに孝治は、軽い調子で言ってやった。

 

「そんときこそなんやけど、今まで隠しちょったほんとんこつ、教えてくれるっちね♐♐」

 

「…………☁」

 

 初めは無言の到津であった。それがしばらくの時間を経過してから、小さく口を開いてくれた。

 

「……わかたある☢ これ以上隠し事良くないわや⛔ ただし、教えるのはほんとに、なにもかも終わったあとにするよろし⚠」

 

「うん、こっちもわかったけ✍ 忘れるんじゃなかっちゃけね✄」

 

 これである意味、孝治としては気が晴れた感じ。このあと到津の右横から、いつもの定位置である列の殿{しんがり}に、再び駆け足で戻っていった。

 

 この間ずっと、友美と涼子は孝治と到津のそばにいて、黙って話を聞いていた。けれど少し離れた場所になったので、友美がそっと、孝治に話しかけてきた。

 

「ねえ、ほんなこつこれで良かったっちゃろっか?」

 

 友美は今の孝治と到津の会話に、なんとなく半信半疑――の感じでいた。だが実は、孝治もその思いは同じであったのだ。

 

「う〜〜ん、わからんっちゃねぇ☁ おれ自身、あん人に対する考えは、初めて会{お}うたときとあんまし変わっちょらんけねぇ☁ でも、友美が前におれに言うたやない☞ おれたち、あん人ば疑い過ぎちょうって☻」

 

「確かにそうやったけどぉ……もし、わたしん言うたことが間違っちょったら……っち、思うてねぇ……☁」

 

 友美が言葉を詰まらせた。そこへ孝治と友美の真上を浮遊していた涼子が、音もなくふたりの真正面に舞い降りた。もともと幽霊なのだから、音など初めから関係しないのだけど。

 

 とにかく涼子が言った。

 

『そんときは、このあたしに任せて!✌』

 

 舞い降りた涼子が、堂々と丸出しの胸を張った。いつもながら根拠不明な自信満々ぶり。ついでに孝治も友美も、もう慣れた。

 

『見張りやったら、これはもう、あたしの十八番{おはこ}なんやけね✌ あたしがあいつば見張ったげるけ✌ で、もしなんかあったら、すぐポルターガイスト{騒霊現象}ば起こしちゃるけね♡』

 

 孝治は苦笑の気分になった。

 

「それはまあ、やり過ぎなんやけど、一応期待しちょるけね☀」


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