『剣遊記U』 第六章 城門の魔獣。 (3) 「うわっち!」
孝治ビックリ。もちろん構わず、荒生田が一同の前に、ドシンと一歩歩み出す。しかしこの行動には、それほどの意味はなさそうだ。
それはとにかくとして、まだ全員の意見は一致をしていないのである。それなのに荒生田は、先輩の威厳を最大級に発揮して言い切った。
「ゆおーーっし! こいつにゃ最後まで案内役ばしてもらうけ☀」
「うわっち! ええっ!」
「先輩! よかとですか!」
孝治と秀正で、一斉に異議の声を申し立てた。しかし荒生田はサングラスのひとにらみで、これらの声を無理矢理的に封殺した。
「なんか文句あるとや♨」
「うわっち! い、いえ……☠」
にらまれた孝治は、思わず亀の気分になって首を引っ込めた。ついでに秀正は絶句。
「…………☃」
それから荒生田がひと言。
「まあ聞け☛ 信頼があろうがなかろうが、こいつがおらんと銀のある場所まで行けんとやろうが⚠ そげな元も子もないこつ、今さらできるっちゅうんけぇ!」
「まっ、確かに、そう……なんですけどぉ……☂」
宝の所在地について突っ込まれると、秀正は今ひとつ、おのれの立場が弱いようだった。なにしろこの期に及んで、自分が見つけた古地図が、初めよりもかなりに信ぴょう性が低下しているからだ。
盗賊である秀正は、これにて陥落と見定めたらしい。荒生田は続けて裕志を標的。気の弱い魔術師に、サングラスの奥で光る三白眼を向けていた。
「裕志はどげんや?」
もちろん今さら、裕志が自分に絶対逆らわないことを見越しての、意地の悪い問いかけである。孝治にとっても、裕志が言うであろう返答は、とっくにわかりきっていた。
「え……い、いえ……ぼくも先輩とおんなじです☃」
「ゆおーーっし! 全員の意見はまとまったようやな! 到津とやら、最後まで道案内ば頼むけね♡」
「はい! わかりましたある☀☀」
荒生田が勝手に決定し、到津は感激の涙を流した。
「あのぉ……おれと友美の意見は?」
孝治の情けないつぶやきなど、ひとり盛り上がりの荒生田から物の見事に無視された。これにてけっきょく、孝治と友美にはなにも訊かないまま、荒生田が勝手に話を締めに入った。
「ゆおーーっし! これにて一件落着ったぁーーい!☀」
もっとも孝治も、これ以上異議を唱えたところで、どうせ荒生田から押し切られるであろうことはわかっていた。
「もう……しょんなかばい⛔」
だから今さら、文句を付ける気にもなれなかった。これは自分でも情けなかっちゃねぇ――とは思っているのだが。とにかく多勢や多数決とかいう言葉に、孝治はとても弱い性分。だから小さな声で、そっとつぶやいた。
「まずは信頼よか、お宝優先っちゅうことやね☻ おれが初めにカッコよう言うたつもりのセリフの真逆なんやけど、ほんなこつ先輩らしかばい☠ まっ、こげんなったらおれはなんがあろうと、護衛の役目ば果たすだけやけどね♐」
今のつぶやきを孝治の性格を知る者――当たり前だが友美が耳に入れた。
「それって一種の強がりやけね♐」
それはそうとして、到津がついに感極まったみたいだ。
「ありがとうだわね! ワタシ皆さんを必ずお宝のとこまで連れてくあるよ!」
涙声で荒生田の両手を自分の両手でグッと握り、ペコペコと頭を何度も下げた。ところが荒生田は、そんな感謝感激の到津に向かって、逆に突き放すような言い方を返した。
「いい気になるんやなかばい! この先おまえがちょっとでも怪しい素振りば見せたら、その時点で問答無用でオレがおまえを斬るっちゃけね☠☢」
「わ、わかった、ある……☠」
到津がツバをゴクリと飲む音を、孝治はこのときもはっきりと耳に入れたような気がした。
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