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『剣遊記U』

第六章 城門の魔獣。

     (2)

 孝治、友美、涼子ら三人のうしろでは、荒生田たちが地面に広げた地図を囲んで、これからの進路と方針の打ち合わせをしていた。

 

 まずは秀正から。

 

「この地図では現在地のこっから先に文字で書かれとうとこが、なんかの暗号みたいになっとうとですよねぇ☟⚤ とにかくこれによると、貯め込んだ銀の所在はこの廃坑地帯やのうて、なんや『峠の三本松✋ 正午に陽{ひ}が差す所☀☜ 西に山ふたつ⚳ 水車小屋流れる先⛴ 廃城あり☆』っちなっとうとですけどぉ✃✁」

 

「ややこしかぁ! 要するに山のどっかに古い城がある、っちゅうことやろうがぁ!」

 

 訳のわからない秀正の道すじ説明で、もともとから短気で有名な荒生田の癇癪{かんしゃく}が、物の見事に大爆発。遅れて話に加わった孝治も、確かに人ば小馬鹿にしたような記述っちゃねぇ――と思いつつ、もっぱら感心は、別の方面に抱いていた。

 

「それもそうなんやけど、銀の番人ばしちょるっち言われちょる、ドラゴンのことも気になるっちゃけどねぇ

 

「おっと、そうやった☀」

 

 秀正も今になって思い出したかのようにして、パチンと両手を打ち鳴らした。そもそも銀山を守護していると言われるドラゴンの脅威から秀正を守ることこそ、戦士である孝治の本来の役目なのだ。

 

 ところが孝治の口から、『ドラゴン』の単語が出たとたんだった。到津がいきなり、血相を変えてのまくし立てをおっ始めた。

 

「そ、それは心配ないある! ここのドラゴン、あが〜に良い人☺ 決して人襲ったりしないのこと!」

 

「なしておまえが、そげなこつ言うとや?」

 

 荒生田が強面{こわもて}の三白眼で、到津をギラリとにらみつけた。すると道案内役の野伏は、端から見ても苦しそうな弁解に終始した。

 

「ワタシ……そのドラゴンのこと、こが〜によく知ってるあるのよ! とにかくドラゴンのこと気にしないで、さっさと宝探し続けるよろし♥」

 

「なあ、到津福麿さんよぉ♨」

 

 荒生田に続いて到津に詰め寄る番。それは孝治であった。

 

「ここまで来ちゃったことやし、いい加減あんたの正体、そろそろ教えてくれてもよかっちゃやないね?」

 

「な、なんのことあるね?」

 

 口では一応トボけているが、到津は明らかに、動揺の面持ちとなっていた。それが証拠に額から、大量の汗が流れ落ちていた。

 

 孝治はそんな状態の到津に構わず、厳しい問いかけを、なおも続けた。今訊かなければ、あとではもう遅い――そんな理由のわからないあせりみたいな気持ちもあって。

 

「おれたちとしてはやねぇ、素情のよう知れんあんたと、いつまでもいっしょするわけにはいかんとばい☠ 確かにあんたはおれたちのために、いろいろ尽くしてくれたっちゃよ☗ やけど、それだけじゃいかんと✄ 我ながらセリフが臭かぁ〜っち思うとやけど、仲間同士でいっちゃん大事なんは、そいつがおったら役に立つやのうて、そいつがおらにゃ、なんか物足りん、っちゅうことなんやけ☛ つまりなんちゅうか、これが信頼……っちゅうにはちと違うかもしれんとやけど、とにかく、ただ役に立つやのうて、やっぱ仲間ば絶対に裏切らんっちゅう、強い絆{きずな}の関係っちゅうたらええのかなぁ……仲間同士、当たり前にそこにおるっちゅうか、それとも裏表がいっちょもなか、っちゅうようなね✊」

 

「そう……信頼あるか✎」

 

 孝治の(我ながら、やっぱ長いセリフやねぇ〜〜、おまけに説得力がいまいちやったし……☻)の言葉のあとだった。到津がツバをゴクリと飲む音がした。それから彼は全員の顔を見回し、口を重たそうにゆっくりと開いた。もちろん全員、到津に注目した。

 

「……ワタシ、皆さんの前にも銀山の残りの銀探しに来た人たち、たくさんたくさん案内したある……でもその人たちワタシを怪しんで、途中で追い出されたわや☠ でもこれみんな、ワタシが自分のこと、言えなかったのが原因☹ これはワタシ自身でも、よくわかてるのこと☢ でも、どうしても言えないこともあるんだわね♐」

 

 まるでなにかを訴えるかのような、到津の重そうな釈明だった。その言葉を聞きながら、孝治は以前、魔術師の美奈子を護衛したときの冒険を思い出していた。

 

(あんときと……ちょっと状況が似とうとかも……☃)

 

 今にして思い返せばあの旅は、仲間同士での信頼関係が、かなりに希薄な感じ。実に息の詰まるような冒険の行程だった。

 

 そんな複雑な思いになっている孝治とは対照的な感じ。

 

「で、おまえば追い出した連中は、いったいどげんなったとや? まさかとっくに、宝ば見つけたっち言わんやろうねぇ☠」

 

秀正は先客のその後のほうが、大いに気に懸かるようでいた。まあ、それもそうであろう。盗賊の立場として、せっかくここまで来たお宝が、とっくにもぬけの殻であったとしたら、これはもう泣くに泣けない笑い話となるからだ。

 

 この問い到津は、一応明快に、きちんと答えた。

 

「それが、ワタシ言うのもなんだけど……やっぱり失敗したあるわ☠ やぱりワタシが案内しないと、宝探し無理みたいね☻ これ嘘じゃない、ほんとの話よ☀」

 

「そうけ☺ そんなら良かばい☀ おれが見つけた地図とは、なんの関係もない話みたいやしねぇ☻」

 

 秀正がほっと、安堵らしい息を吐いた。このとき孝治は思った。

 

(なんちゅうたかて、自分が発見した古地図が、実は同じ物が何枚もあって、ライバルも実はたくさんおった……っちゅう最悪最低の事態だけは、なんとか避けられそうやけねぇ☻☻)

 

その背後から、珍しくも今まで黙って話を聞いていた荒生田が、いきなり高い奇声を上げた。

 

「ゆおーーっし! わかったあ!」


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