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『剣遊記U』

第六章 城門の魔獣。

     (1)

「ここが銀山の跡地だわね☞ 見てほしいね☞ 『兵{つわもの}どもが夢の跡』、まさにこの場のための格言あるね☛」

 

 到津の道案内で到着することができた石見の銀山は、見渡す限りの廃坑、廃坑、また廃坑ばかりが広がる、荒れ果てきった光景だった。

 

 孝治たち一行は現在、跡地を見下ろせる小高い丘の上から、周辺一帯を眺めていた。だが、付近の山々は地底を掘り尽くした影響なのだろうか。すべての木々が絶えてしまい、辺りは完全なハゲ山ばかりとなっていた。

 

 最盛期にはこの銀山で、一万人近くの鉱夫たちが働いていたと言われている。しかし今は、その話がとても信じられない有様。そんな殺伐とした情景が、地の果てのどこまでも続いていた。

 

 いくらか雑草などが生えてはいるが、樹木の回復には、まだほど遠い状態。まさしくこれは、環境破壊の見本市である。

 

「……銀さえ出らんかったら、ここも深い緑に包まれた森林やったとに……石炭の掘り過ぎで荒れ地ばっかしになっとう筑豊と、なんかよう似とるっちゃねぇ……☁」

 

 荒涼とした大地をジッと眺める友美は、九州筑豊炭田の出身である。だからここは、自分の生まれ故郷の有様とウリふたつ。まさに胸が締め付けられるような思いがするのだろう。

 

「人間様っちゅうやつは、欲望がどこまでも底無しなんやけねぇ……☂」

 

 どうやら友美の気持ちに感化をされたらしい。孝治もどこか、胸に切なげな気持ちが湧いていた。

 

「銀ば求めてとことん山ば掘り返して、ついには地下ば穴だらけにしたんやけ☢ おかげで水源まで枯らしちまって、周囲の森は全滅☠ 廃坑になってやっと、元の静けさが戻った、っちゅうところやろっかねぇ☃」

 

 しかしよくよく考えてみたら、おれたちかてここに残っとるはずの銀ば探して、ここ石見まで来たわけやけ、やっぱ人んことは言えんばい――と、孝治は内心で自嘲もした。

 

 そんな孝治と友美を、涼子が右横から冷やかな目線で見つめていた。

 

『ふたりとも見掛けによらんと、けっこう感傷的なんやねぇ♠』

 

 しかしその涼子も、廃坑を見る瞳が、どこか悲しげだった。理由はすぐに、彼女自身が語ってくれた。

 

『今だから言えることやけど、ここの銀山の採掘にはあたしん家{ち}……つまり曽根家もそーとー出資しとったんよねぇ☢ やけんそれも、没落の一因になったらしいっちゃけどね☂』

 

「へえ、意外な因縁もあったもんちゃねぇ☂」

 

 世の中やっぱし、広かようでせまいもんやねぇ――と、孝治は涼子の話を聞いて、しみじみと世の不思議な巡り合わせを実感した。


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