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『剣遊記U』

第六章 城門の魔獣。

     (15)

 この一方で、やはりオーガーの逃亡を望見していた秀正が、孝治の右肩をポンと軽く叩いて言った。

 

「まあ、これで邪魔者は消えたっちゅうわけやね✌ そんじゃ、城の探索と行こっかね✈」

 

 しかし孝治はこのとき、秀正ではなく到津のほうに顔を向けていた。

 

「ちょっと待ってや、そん前に♐」

 

 孝治はいまだオーガーの血が付着している斧を両手で持ったままでいる到津の所へ、バタバタと駆け出した。

 

「お、おい! 孝治!」

 

 あとから秀正と友美と涼子も続いた(もちろん秀正は涼子を知らないので三人だけと思っている)。

 

 そこでいったん立ち止まり、それからペコリと孝治は頭を下げた。

 

「あんたがこの戦いの最大の勇者やけ♡ とにかく感謝するばい♡ 今まで疑っとって、ほんなこつごめん!」

 

「そんな! 頭上げてほしいわや!」

 

 恐らくなんの心の準備もしていなかった所へ、いきなり孝治から頭を下げられたためであろう。到津は本心から照れ臭そうな顔になって、顔面の色を真っ赤へと変えた。

 

「ワタシ、皆さんが危ない思うたから、つい夢中でやっただけだわね☺ だからまだまだ、ワタシを疑ってて構わないあるよ☀」

 

 ここで秀正も話に加わり、ひと言突っ込んだ。

 

「じゃあ、そげんするけね♡」

 

「それもちと困るあるね☃」

 

「そうっちゃねぇ♡♡」

 

 これにて孝治の音頭取りで、三人が声をそろえての大笑い。この光景を見ていた涼子が、どうやら勝手に感激をしたようだ。孝治と友美にしかわからないのだが、うるうるとした瞳になって、孝治たち三人を見つめていた。

 

『これってほんなこつ良かっちゅうもんやねぇ〜〜♡ これこそ男の友情、あるいは花道ってもんばいね⚽ ひとり難があるとやけどね♥』

 

 その難の件についてはまあ、もはや良しとしておこう。このとき幽霊(涼子)の存在を知らないであろう秀正(前述済み)が、ふとなにかの疑問を抱いたらしい。到津に尋ねていた。

 

「ところでつまらんこと訊くっちゃけど、その斧はどこにあったとや?」

 

「ああ、これあるね✎ 実はあそこわや☚」

 

 到津は秀正の問いに答えるかたちで笑い顔のまま、右手人差し指で、ある場所を示した。そこはオーガーがいきなり飛び出した、壊れて開きっぱなしとなっている城の門だった。

 

「あの中に、前の城主が残した武器、たくさんたくさんあるのこと✍ ワタシそれ知てたあるから、すぐに取ってきて使ったあるよ✌」

 

「なんねぇ、それやったら城ん中んこつ、やっぱり前から知っとったんやない✄」

 

 秀正がさらに、話の核心に迫るようなツッコミをした。するとなぜか到津が、ぐっとノドを詰まらせた。

 

「そ、それは……そのぉ……ワタシ、この城にたびたび入ったことがあるからよ☁」

 

「オーガーがおったこと、知らんやったのにけ?」

 

 孝治も突っ込む側に加わったが、やはり到津は答えてくれなかった。それどころか孝治と秀正を急かすようにして、自分からさっさと、門のほうへと足を向けた。

 

「さ、さあ、皆さん、早く城に行くある☀ もしかしたらオーガー、またここに戻ってこないとは限らないあるね☃」

 

 このような到津の態度を見た秀正が、孝治の右耳にそっとささやいた。

 

「やっぱあいつ、怪しいっち思わんね☠」

 

 孝治もコクリとうなずいてやった。

 

「おれもそう思う☠ やっぱり今までどおり、警戒したまんまで行くっちゃね♥」


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