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『剣遊記 番外編Y』

第五章 人生楽ありゃ苦もあるさ。

     (9)

 しかしそれらは、すべてが終了したあとの話。もともと済んだ話を気にしない律子の性格もあって、秀正も連中のその後には、もはや関心を向ける気はなかった。

 

 ついでに申せば、秋恵がホムンクルスである件も、律子からきちんと教えてもらっていた。なんでも話によれば、彼女を産んだ母親はふつうの人間なのだが、父親のほうが職業不明の、少々変わった亜人間だったと言う。

 

 秋恵の母親は、ある酒場で働いていた娼婦であった。ところがある日、どこからともなく現われたひとりの男と一夜をともにし、そのときに身ごもったらしいとのこと。しかし娘が産まれる直前に、男は酒場から、忽然と姿を消した。

 

 以来、一度もお目にかかっていない。

 

 つまりは捨てられたわけだが、それでも母親は娘を一生懸命に育て上げ、見事立派な少女にまで成長させたのであった――と、ここまでは巷によくある美談。いやいや女の人の苦労話なのだが、問題なのは亜人間の父親がかなりに異色な存在で、なんと体を自由に変形できるホムンクルスだということにあった。そのために娘は父親の特殊能力を見事に受け継ぎ、秋恵自身も自分の体を自由自在に変形させる力を、産まれながらにして身に付けているらしいのだ。

 

(そげやけ、秋恵ちゃんは二代目っちゅうことなんやけど、その問題のおいしゃんの正体は、けっきょくわからず終いのまんまできょうまでなっちょう、っちゅうことなんよねぇ……なんか話によっちゃあ、どちらかと言えば裏の業界やったみたいなんやけど、それよか言うたらなんばってん、秋恵ちゃんかてまだ子供っちゅう感じやのに、まさに波乱万丈の人生ばいねぇ♋)

 

 秀正には聞こえないようにして、律子は秋恵の身の上話を小さく反復した。それからすぐに、今ひとつ腑に落ちていないような顔をしている亭主――秀正を急かして、律子は家路への足を速めさせた。

 

「まあ、済んだことはもうよかやない☻ それよか家で祭子と秋恵ちゃんが待っとうとばい☛ やけん早よ急ぎましょ✈」

 

「あ、ああ……けっきょくおれは、話の終わり直前に顔だけ出して、そしてこれまた、けっきょくなんの活躍も無しで、今回は終了なんやねぇ☹」

 

 実は本編においても、最近は出番が乏しい状態。そんな自分自身について、秀正が愚痴をこぼしつつだった。ふたりの前に、夫婦の『愛の家庭』――恒例の薔薇屋敷が見えてきた。


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