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『剣遊記 番外編Y』

第五章 人生楽ありゃ苦もあるさ。

     (8)

 さて、徹哉が帰ったという話を、律子はその日のうちに秘書の勝美から聞かされていた(前述しているが、勝美は別の用件で外出を命じられていた)。

 

 それはそうとして、今は遺跡発掘の仕事を終え、北九州に戻った自分の亭主――秀正といっしょに、帰宅の道を急いでいた。けれどもその亭主とやらは、愛妻が自分の留守中に危ない目に遭っていた話を聞き、かなりに憤慨もしていた。

 

「いっくら若いやつの勉強やからっちゅうたかて、あんまし危険な真似させんやなかっちゃよ☢ それに何回も言いよんやけど、おまえの腹ん中には、祭子の弟か妹がおるんやけな☹」

 

 それでも一応、律子は無事である。これに安堵が半分、ヤバい振る舞いに対する腹立ちがまた半分の思いに、今の秀正は浸っていた。

 

 なお、この思いに応える妻――律子の言い訳は、これ。

 

「わたしかて安全ば第一に考えてやねぇ、平尾台にある古城ば修行の場所に選んだばってん、そしたら城ん中に悪モン一味はおるわ、誰も知らんかったマミーが出るわで、もう想定外の騒動の大行進ってなもんやったとよ☠ やけんこれって、一種の不可抗力なんやけね⛑⛔」

 

「やけんっちゅうてもねぇ……☹」

 

 それでもひと言、苦言を返しそうになって、秀正は口をゴクリと噤{つぐ}ませた。なにしろ妻と本格的な口ゲンカを始めたら、まるっきり自分に勝ち目がないものだから。

 

 実際の話、律子と秋恵の活躍で、城に潜んでいた悪者たちは、全員衛兵隊によって逮捕の憂き目となった。また彼らが隠していた盗品の数々も、すべて押収の憂き目となっていた。

 

 ただ彼らは捕まったあとでも、なにかよほど恐ろしい体験をしたらしい。

 

「薔薇ぁ〜〜、薔薇がえずかぁ〜〜☠」

 

「ピンクのボールが襲ってくるんばぁ〜〜い☠」

 

 親分の杭巣派を始め、手下の炉箆裸たち一同、今も留置場の中でうなされ続けていると聞く。


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