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『剣遊記 番外編Y』

第五章 人生楽ありゃ苦もあるさ。

     (10)

「ただいまぁ〜〜っと♪」

 

 家の中には留守番役がいるので、秀正は声をかけてから、そっと玄関のドアを開いた。さらにわずかしかないと言われる亭主の威厳で、律子よりも先に、我が家へと入った。

 

 だけど、家の中は静かそのもの。

 

「あれ? 秋恵ちゃんはおらんとね?」

 

 妻の後輩である新人盗賊とは、実はきょうが初めてお顔を拝見する日だった。そのためだいたいの話はすでに、妻の律子から聞いていた――というのは前述済み。

 

 ただし秀正には、これでけっこう浮気性の気があり。本心では律子に内緒でチャンスさえあれば、こっそり付き合おうともくろんでもいるのだ。

 

「秋恵ちゃんやったら祭子のお守りも頼んどうとやけ、そっちの部屋におるんやなか☞☞」

 

「あ、そうなんけ☻」

 

 まっすぐ台所に入った律子に教えられ、秀正は娘の寝室に足を向けた。

 

 ここは秋恵ちゃんに早よう会いたい下心もあるが、やはり愛娘の寝顔に挨拶をしたいという親バカも捨てがたかった。

 

 そのついで、ふたりとも(秋恵と祭子)同じ部屋にいるのなら、これもある種の一石二鳥であろうか。


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