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『剣遊記 番外編Y』

第五章 人生楽ありゃ苦もあるさ。

      (6)

「ぬぁんだがね? 黒崎クン」

 

 これに日明が、むしろ面倒臭そうな顔になって振り返った。しかし黒崎の目線はこのとき、博士よりも右横にいる徹哉のほうに向いていた。

 

「実は……徹哉君の件で、さっきから少し気になる点があるんだが……」

 

「どぁからぁ、徹哉クンはこのうわたくしの研究所でぁ、徹底的に修理すると言うておろうぎゃあ♨」

 

 黒崎もすでに知り尽くしているのだが、日明はその性格上、とにかく自分の邪魔をする者に対し、とことん立腹する性質があるのだ。従って今回も、自分の(せっかち気味な)行動を呼び止められ、この程度で不機嫌となったようである。

 

 無論当の黒崎は、繰り返すけど友人の性癖など、とっくにご承知済み。今以上に日明を怒らせないよう注意を払いながら、自分が感じている疑問について尋ねてみた。

 

「実はさっきから大変気になってたんだが、徹哉君について、紳士的な振る舞いもその独特な口調も、今回来たときとこうして帰るときでは、なんだかニュアンスが違ってるようなんだが……なんだかセリフの所々に、変で関係も脈絡性もない言葉が混じってるように思うんだぎゃ……とにかく昔の流行語みたいなのが……この原因は、なんだかわかるだろうか?」

 

 ついでに黒崎は、頭の中で付け加えてもいた。口に出しては失礼な思いを。

 

(なんと言うか……徹哉君の格が、少し下がったような気もするんだがね……律子君と秋恵君はなにも言わなかったが、ふたりともまったくこれに気づいてなかったようだがにぃ……☁)

 

 これには真っ先に、当の徹哉が応じてくれた。

 

「ソレバッテン、ボクノシャベリ方ガオカシイノカナ。ヒャッハァーー」

 

 続いて日明。

 

「う〜む、これはこそばゆい話けゃあも⛑⚠

 

 相変わらず能天気そうな――かつポーカーフェイスの徹哉に比べて、一応日明は大人であった。黒崎からの一応真面目な問い立てで、立腹気味だった日明も、たぶん一時的ではあろうけど、矛{ほこ}を収めて冷静さを取り戻していた。しかも見た目でわかるとおり、下アゴに左手を当てての考える素振りも見せてくれたのだ。

 

「ふぅ〜む、なぁ〜〜に、確かにその件なのだがねぇ、バラバラになった程度で、徹哉クンの性能その他が変質なんてぇ、くぉのぉうわたくしのIQ820の天才的頭脳をもってしてもだにぃ、まぁずは考えられん事態なんだがや☀ まあこの付近の原因も含めてだぎゃあ、このうわたくしが徹底的に調べておくわいわい♐♐ まあ適当に考えられる要因を推察してまうに、ネジの一本でも外れたがや、と言うところだがねぇ♡♥」

 

「ネジが一本ねぇ……☻」

 

 そぎゃん馬鹿ん話――とは、これも口には出さないでおく。

 

(いや、日明博士のことだぎゃあ、それも有りかもしれないがやねぇ……☻)

 

 黒崎は出そうになったセリフを飲み込むような気分で、一応自分自身の本心を、納得の境地へと導かせた。


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