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『剣遊記 番外編Y』

第五章 人生楽ありゃ苦もあるさ。

     (5)

「それでは徹哉クン! うわたくしといっしょに、元の世界に帰るだがんねぇ✈ なにしろチミはうわたくしの研究所で、まだまだええころかげんな修理ではなく、本格的な修理をせにゃーいかん身であるがんねぇ⛹ チミにはまだまだ、こっちゃの世界での調査研究に誠心誠意の努力をどえりゃーしてもらわんといけにゃーからのぉ☠☀ ぬぉっほっほっほっほっ☆★ ほんじゃまた来るがや☆」

 

 『元の世界』うんぬんとやらを言っているが、ちなみに日明自身のほうは、こちらの世界と元の世界について、なぜか特に境界線を気にしている様子はないようだ。ここで他人に聞かれては困る――いやいやそれ以前に、真意を計りかねるような雑言を吐きながら、よたよたしている徹哉の背中を、ドンと力いっぱいに押すばかり。それから執務室の一角にある(たぶん西側)、秘密の部屋へと歩いて向かった。

 

「のわぁーーっはっはっはっ☺」

 

 その秘密の部屋とは、これであった。博士が壁の一点に付いている青いボタンのような円形突起物を、左手人差し指でポンと押せば、壁全体が手を触れてもいないのに、ガァーーッと両側に開門。しかも新しく登場した部屋の中は、色とりどりの色彩で彩られている金属やガラスの装置みたいな物が、思わず目を見張るような明滅を繰り返していた。

 

 店長執務室自体は、実はそれほど広いわけでもなかった。また壁の向こう側は未来亭の外(ここは二階だから、当然空中)であって、決してもうひとつの空き部屋が存在するはずがないのだ。それなのに建物の構造上の矛盾を超越して、その部屋は無いはずの空間に現出をしていた。

 

「すぁて、徹哉クン、帰るとするがや⛐」

 

「ハイ、博士……ナンダナッチャ」

 

 そんな奇怪極まる――いやいや機械極まる装置だらけの部屋の中へ、なんの疑問も躊躇もなし。日明と徹哉が、足をそろえて入ろうとした。

 

 そのふたりに黒崎が、なにか思いついたような感じで、背中から声をかけた。

 

「ちょっと待ってほしいがや、日明博士」


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