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『剣遊記 番外編Y』

第五章 人生楽ありゃ苦もあるさ。

     (4)

 同時刻、未来亭(このパターン多いなぁ)。

 

「ぬははははのはっ☀ お調子はどうだがね、徹哉クゥ〜〜ン☄」

 

「ハイ、博士、ナントカ可動ハ可能ナンダナデゴワスナンダナ」

 

 マミーとの激闘で、完全分解バラバラ状態となっていた徹哉であった。それが今では首とボディ、両手両足が見事につながり、元の人型体形に戻っていた。

 

「しかし、こわれた箇所を応急で修理するのに一週間もかかるとは、やはり精密な機械は時間がかかるもんだがや」

 

 ここは未来亭二階の店長執務室。でもって現在部屋の中にいる者たちは、店長の黒崎氏と来賓である日明博士。さらに徹哉の三人だけ。

 

 秘書の勝美も給仕長の熊手も、他の用を言い渡して、ふたりとも不在中にさせていた。

 

 その黒崎が尋ねた。五体満足に戻ってはいるものの、どこかぎこちない動きをしている徹哉に向けて。

 

 これは治って――ではない、直って良かったの安心感と、ついでにこの先大丈夫がや?――という不安の入り混じったもの。そのように複雑な感じの眼差しを、ふたり(日明と徹哉)に対して向けていた――だった。

 

「僕も初めは、徹哉君があんなにバラバラになってるのを見て、正直これで修理ができるんだがや? と疑問に思ってたんだが、それがなんとか元に戻ったとこまでは良しとするがね。まあ、そこはアンドロイドの生命力……いやいや違うか。なんと言うべきか、真価の発揮みたいなものを感じたんだがや……✌」

 

 このとき黒崎は、思い出していた。実際、律子と秋恵のふたりが、バラバラ事件の主役となっている徹哉をかかえて帰ってきたときには、未来亭はそれこそ、上へ下への大騒ぎの渦中となったものである。

 

 ただ幸いと表現するには、『それは違うがや?』が付きまとう展開なのだが、黒崎と日明以外の給仕係や一般のお客さんたちは、徹哉を一種の亜人間――もしくはホムンクルスだと思ったらしかった。従って徹哉が五体バラバラ状態で活動――要するに生きていても、そこは絶対に死なない不死の生命力の持ち主だろうと、有り難くも勝手に信じてくれたのだ。

 

(まあ、確かにこちらの世界の感覚だったら、人を機械で造るという発想自体が、まず有り得ないだろうからなぁ……魔術ならともかくとして)

 

 声には出さず、黒崎は静かにつぶやいた。


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