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『剣遊記 番外編Y』

第五章 人生楽ありゃ苦もあるさ。

     (2)

 表面上の笑顔は絶やさないようにしても、心情はもはや、神頼みの境地。そんな秋恵の瞳に写った光景は、祭子がなにやら、ベッドのシーツを自分の小さな手でもみくちゃにしている様子。

 

「ばぶばぶぅぅぅ☀」

 

 これを見た秋恵の頭に、ピン💡と閃くモノがあり。

 

「そっけぇ、祭子ちゃん、なんかやわらけえもんばさわりたいとやね☞ 強いて言うたら、おかさんの肌みたいなモンやろっか☺」

 

 やわらかいモノうんぬんはともかくとして、まだ赤ん坊である祭子は秋恵が考えるように、母親――律子の温かい肌を求めているのかもしれない。これは母性を有する女性ならではの、いわゆる勘のような発想であろうか。

 

「まあとにかくばってん、手でこそばい感じでさわれるやわらけえモンでもなかろっか? 赤ちゃんがごーぎベチャベチャしたかて、いっちょん大丈夫なモンとかねぇ⛲」

 

 秋恵はすぐにベッドの横で立ち上がり、部屋の中をキョロキョロと見回した。だけどあいにく、先輩――律子からは、家のどこになにがあるかを、まだ教えてもらっていなかった。

 

 おまけに手頃な玩具(例えばぬいぐるみ)なども見当たらない。

 

「う〜ん、困ったばいねぇ……先輩っち、祭子ちゃんにあんまりおもちゃば、買{こ}うてやっとらんとやろっかねぇ♋」

 

 せっかくご機嫌取りの糸口が見つかったというのに、これではなんの解決にもならなかった。

 

「ふぅ……☁」

 

 少々だけど落胆をして、秋恵は軽いため息を吐いた。このとき再び、頭にピン💡と閃くモノが。

 

「そうたい☆ あるっちゅうたら……あったろーもん……すっごう身近にやねぇ✌ それも赤ちゃんにすっごう無害なおもちゃがね♪」

 

 ここまで話が進行すれば、賢明なる読者諸君は、もうおわかりであろう。ベッドのそばで立つ秋恵は、家の中に祭子ちゃん以外、誰もいない状況を良いことにした。それから着ている衣服(きょうはピンクのTシャツとジーンズ)を、この場で一気に脱ぎ捨てた。

 

 もちろん赤ん坊相手に恥ずかしがる必然性は皆無。なので、もう遠慮なしの完全真っ裸。

 

「さっ、祭子ちゃん、今からぼっくりおもしろかおもちゃば見せたげるばい♫♬ まあ、それってあたし自身なんやけどね☻」

 

 祭子の前にて、完ぺき全裸の秋恵。そんな彼女が床に腰を下ろし、クルリと体を前転。その姿があっと言う間に(誰もなにも言ってないけど)表面がツルツルの、ピンク色をしたボールへと早変わり。

 

 ホムンクルス秋恵の、三度目の大変身であった。


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