前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記 番外編Y』

第五章 人生楽ありゃ苦もあるさ。

     (11)

「ただいま、祭子ぉ♡ 今夜は最高ってねぇ♡」

 

 娘がまだしゃべれないのは承知の上。それでも親バカで声をかけてから、秀正は楽しい気持ちで、部屋のドアを開いてみた。

 

 そこで彼が目撃した光景は、なんとも驚くべき事態。

 

「わわぁっ! ど、どげんなっちょうとやぁ!」

 

 恐らく現在までの人生経験十九年の中で、最も大いにたまげた出来事となったであろう。

 

「なして女ん子が真っ裸で寝とうとねぇ♋♋」

 

 部屋の真ん中に置かれているベビー用ベッドの中で、愛娘――祭子がすやすやと寝息を立てている光景は、まあいつもの定番といってもよいだろう。しかしとんでもない状況は、そのベッドの右側で体に一糸もまとっていない女性がうつ伏せの格好となって、やはり静かに眠っている光景にあった。

 

 その、うっすらと桃色ににじんでいる背中からお尻までが、まさしく丸見えの状態なのだ。

 

「こ、こん娘{こ}が秋恵ちゃん……大谷秋恵っちゅう娘け?」

 

 初めは飛び上がる思いの秀正であった。だが、やがて気分が落ち着くにつれ、冷静に全裸の少女――秋恵の全身を眺められる気持ちになっていた。

 

「ま、まあ……大胆っちゃねぇ★」

 

 確かに初対面とは言え、お互いに話はすでに聞いていた。なので、特に知らない同士の関係でもなし。それが理由と言えるのか、我を取り戻すまで、秀正は長い時間を必要とはしなかった。しかしそれでも、その秋恵がなぜ真っ裸でいるのか。根本的な疑問が、さらにふくらむ一方となっていた。

 

「な、なして……祭子の隣りで裸になって寝ちょうとや? きょうはそげん暑かったとやろっか?」

 

 それでも少々、気の動転がやはり残っていた。そのためか理由の推測も、かなりにトンチンカン気味だった。

 

「でも、っちゃねぇ……☻」

 

 しばらくしてなんとか、胸の鼓動が鎮まるとともに――であった。元のスケベな性分があらわになってきた。

 

「まあ、ええ体ばしちょるっちゃねぇ☻ 裸んことは別にして、今度はおれが盗賊の勉強ば教えてやろうかいねぇ……☺」

 

 その勉強のついで、女房――律子に内緒で遠方の冒険に連れて行くっちゅうのも、これはこれでけっこう楽しいかもしれんばい――などなど。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system