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『剣遊記T』

第二章 五日前まで男だった。

     (2)

 けっきょく孝治は、友美から(窮屈な)女性用の胸甲を借りて、無理矢理的に装着した(友美ちゃん、ごめん!)。

 

 それからまっすぐに山国川を下ったものの、ある重要なことに気がついて正式な東九州街道を通らず、山中の脇道を遠回りや迂回の繰り返しで北上した。山の中で山賊が出てくる恐れはあったのだが、そこは幸運にも、なんとか遭わずに済んでいた。

 

 本当に遭遇したら出発前のセリフのとおり、孝治の剣と友美の攻撃魔術で撃退するつもりだった。そんな危険を冒してでもふつうの街道を通らず、山道のほうを選んだ理由。それは街道をまっすぐ通れば必ず、各地の市や町の検問に引っ掛かることに、あとから気づいたからであった。

 

 現在孝治の所持している通行証には、以前のまんま、性別欄に男性と記入がされていた。しかし、今や見た目も肉体そのものも、完全なる女性である。これでは検問通過の際に揉め事発生が、火を見るよりも明らかなのだ。

 

「こげな大事なこと、もっと早よ気ぃつかんかったとね?♨ なんとか無事に済んだっちゃけど、けっきょく元の木阿弥みたいなもんやない⛐⚠」

 

「ごめん、初めんときは自分の胸んこつばっかし考えとったもんやけ……通行証の男女んこつまで気が回らんかったっちゃねぇ☻」

 

 ぷりぷりと文句を垂れる友美に、孝治は苦笑で返すしかなかった。

 

 それでも苦節五日間の艱難辛苦{かんなんしんく}を見事に耐え抜き、孝治と友美は周囲が長大な城壁に囲まれている、大きな街の門前――北九州市まで、なんとか帰り着く難行苦行を成し遂げた。


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