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『剣遊記X』

第二章 許嫁と玉の輿。

     (7)

 もちろんそのような個人的事情など、美奈子にとっては興味の対象外であろう。それよりも魔術師は、バードマンの娘のセリフに含まれた、ひとつの単語に関心を集約させている様子でいた。

 

「試練どすかぁ……いったいなにをなされるんどすか?」

 

「ええ、簡単なことなんさぁ♡」

 

 傍目で見ても、静香はいたって、上機嫌の模様。なんの疑念もなさそうな感じで、美奈子の問いにペラペラと答えていた。

 

「あたしの故郷は、北関東群馬県の赤城山の麓なんだがね んでもってそこでぇ、あたしと進一さぁで赤城山さ登っでぇ、お宝さ取ってくればええだでよ♡ ただ、それだけなんだがねぇ♡」

 

「お宝どすか!」

 

「そうかいな!」

 

「うわぁーーい♡ お宝さんですうぅぅぅ♡」

 

 さらなる具体的な単語――『お宝』の登場で、美奈子、千秋、千夏三人の瞳の色が、コロッと変わった。それも具体的に表現すれば、三人そろって漆黒から、見事な真紅へと変化したかのよう。早速静香に飛びつくようにして、美奈子が質問を繰り返した。

 

「そ、そのお宝と申しはるものは……いったいどのような物どすか?」

 

 美奈子の気迫に押されてか。さすがの静香も、一歩たじろいでいた。

 

「……そ、それはぁ……あたしの村で代々伝わる成人の儀の祝い道具らしゅうてぇ……確か大きな金で出来たモンだっただどもぉ……いっぺん見たことあっただけど、なんかすっごいひずりぃ(群馬弁で『まぶしい』)モンだったべぇ☻」

 

「金で出来はったお宝でおまんのやな!」

 

 この時点において、これからあとの展開が、すべて決定となったわけ。

 

「承知しましたえ! このたびのそなたたちの試練、立会人としてうちと千秋と千夏もご同行させていただきますえ! もちろんあらゆる援助や協力を惜しみまへんさかい、どうか大船に乗りはったつもりでおくんなまし!」

 

「は、はあ……☁」

 

 美奈子の言わば、急転直下なる独断専行。静香は言葉も返せなくなっていた。また、この半分唖然的な対応が、勝手に同意と受け取られたようだ。

 

「では、出発の日取りはまた改めて行ないますさかい♡ まずはおふたりにご祝福を♡」

 

「……あ、ありがとうございますだぁ……☁☁」

 

 けっきょく、なにがなんだか、訳がわからないままであろう。とにかく魚町と静香の試練とやらに、初対面である魔術師の、強引極まる同伴が決まった展開。この変な状況に静香は、孝治たちだけに聞こえるよう、こっそりとささやいた。

 

「まあ、ええだ♥ 試練さ言うでも、まぁずただのお祭りだんべぇ♥ それに立会人がおったらいかんとは、誰からも言われでねえがらなぁ☆」

 

 だから見学したけりゃ、勝手にどうぞ――と言いたいところか。

 

 これらの成り行きを、孝治は初め、第三者の気分で眺めていた。だけどすぐに、異様に燃え上がっている美奈子の瞳を見て、その真意を察知した。

 

(ははぁ……千秋ちゃんが前に言いよったとやけど、最近仕事の儲けが少ないとやけ、ここらで一発、お宝の恩恵に授かりたいっちゃね★)


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