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『剣遊記X』

第二章 許嫁と玉の輿。

     (4)

「……ひ、裕志のせいやけね……♨」

 

 青色吐息の思いで、孝治は裕志に文句を垂れた。

 

「ま、真岐子にちょっとでも話しかけたら最後、延々とおしゃべりが続いちまうっち、前に言うたことがあったろうも……おかげで本題といっちょも関係なかとこまで話が飛んじゃったばい……♋」

 

 無論裕志とて、黙ってはいなかった。

 

「……そげなんズルかっちゃよ♨ 最初に話しかけたんは孝治ばい……☞」

 

「……まあ、とにかく由香んおかげで助かったっちゃね☀」

 

 旗色が悪くなりかけた所で、孝治はすぐに話をそらした。このようなグロッキー状態である後輩ふたりを前にして、魚町だけは我関せずの態度。青汁の大ジョッキを、すでに六杯もカラにしていた。

 

 あの驚異的長話の最中に――であった。

 

「なるほど、もともと愉快な娘っ子ばっかしやったけど、おれがおらん間に、また愉快なんが増えたみたいっちゃねぇ♡」

 

「はい……そうでして……それはそうやけど、裕志、由香んやつ、厨房にこもりっきりやなかと?」

 

 魚町先輩の豪快な胃袋には、今さら驚きはしなかった。しかし孝治は話をそらしたついで、由香の様子が気になり始めていた。

 

 これに裕志が応じてくれた。

 

「うん……さっき静香ちゃんから悪口ば言われたこと、まだ根に持っとうみたいなんよねぇ……それであんまし、顔ば見とうないようなんやけ☁」

 

「女っち、執念深いもんやけねぇ……おっと、おれもやった★」

 

 などと言ってから孝治自身も、なんだか妙な気持ちになってきた。

 

 つい女性を悪く言ってしまったものの、今はおのれが、立派な女性であるからだ。

 

 それなのに――である。

 

 孝治も静香から、厭味なひと言を投げつけられていた。

 

 もちろんそのときは、怒り心頭に達したものだった。しかし今はその出来事を、ケロリと忘れている自分がいるのだ。

 

 こんな軽薄な話で、孝治は自分自身の男性気質を称える気など、さらさらなかった。だけどもうひとつ、わかった事実。男のあっけらかんぶりが、まだ自分の中にけっこう残っていたようだ。

 

 でもって考えた末、出てきた回答がこれ。

 

「おれっち……中途半端な存在っちゃねぇ〜〜☁」


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