『剣遊記超現代編T』 第四章 美女(?)漫画家のいちばん長い日。 (6) 楽天家と心配症のふたり(荒生田と友美)が、やや遠くから見守る中だった。撮影は快調に進められていた。
「よっしゃあーーっ! じゃあ四人そろって波打ち際で寝転がってみようかぁ!」
「「「「はーい☁」」」」
もはや考える余裕もなし。元孝治たち四人は中原の撮影指示に、ただ黙々と従うのみでいた。しかも中原の指示があれこれとけっこう過酷で、孝江も孝乃も治花も治代も、撮影の始まりからずっと砂浜を走らされてばかり。時には海にも飛び込んで、短い距離だけど水泳までもやらされたりする。
「よーーしっ! 少し休憩しよっかぁ!」
一応休み時間を作ってくれるだけ、まだ良心的なカメラマンと言えるのかも。
「やれやれっちゃね☕」
まだまだ精も根も尽き果てるところまでは至っていないが、それなりに疲れている治花が、砂浜にペタリと尻を下ろした。そこへ井堀が、冷えた缶コーヒーを持ってきてくれた。
「はい、先生、どうぞ☺」
「あ、ありがと♡」
初めに記したとおり、撮影現場には中原の専用スタッフばかりではなく、元孝治たち四人のアシスタントまでが参加をしていた。まあ、漫画を描く仕事の中心である四人が撮影に連れて行かれたので、スタジオとしては暇である――とは言っても、急きょ決まった水着撮影に間に合わせるため、昨夜までに連載作品を完成させる修羅場が、ここしばらく続いたのだ。元孝治たち四人がかなりくたびれ気味となっている理由も、それが大きな原因といえた。しかも同じ疲労感をかかえていながら、アシスタントたち四人も撮影に同行したのだ。その表向きの理由は、漫画家先生のマネージャー気取りで、水着撮影への全面協力といったところか。
だけど、誰もが知っていた(特に涼子と友美など)。彼らの本音は撮影の手伝いに格好をつけて、実は孝江、孝乃、治花、治代の水着姿を存分に拝みたい――これに尽きることを。
「はい、先生、コーヒーとコーラ、どっちがいいですか?」
もちろん井堀だけではなく和布刈も自分から率先して、元孝治たち四人に飲料水の缶を配っていた。ちなみに砂津と枝光のふたりは、もっぱらプロカメラマンの仕事ぶりに興味があるようで、そちらのほうの手伝いに専念していた。そこでは荒生田の子分だなどと酷評されている牧山も、カメラマンスタッフとしてレフ板持ちなどに酷使されていた。
「先生たち、ご気分はいかがですか?」
治代に缶コーヒーを手渡した和布刈が、小さな声でささやいた。
「そうっちゃねぇ……☁」
いただいたコーヒーをぐびっとひと口飲んでから、治代は答えた。
「初めてのことばっかりなんで、もう身も心もくたくたっちゃね☠ いったいいつまで続くとやろっか?」
ずっと続いてほしい――とは、和布刈は決して口から出さないようにした。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |