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『剣遊記超現代編T』

第四章 美女(?)漫画家のいちばん長い日。

     (20)

 元孝治たち四人が、中原のほぼわがままに翻弄{ほんろう}されている間だった。付き添い気取りで参加をしている涼子は現在、ほとんど暇な状態といえた。おまけに、ひとりだった元兄である四人の姉(ややこしい!)のヌードも今や見慣れてしまっているので、彼女は撮影現場から少し離れ、寮の建物の裏側をうろうろとしていた。

 

「お兄ちゃん……あっと、これはまだまだあたしも慣れてないわねぇ☻ とにかくお姉ちゃんたちも大変ちゃねぇ なまじ元が良くて女ん子になっても美人の部類でおられただけに、あげなヌードモデルまでせんといけんようになるんやけ♠♥

 

 涼子自身も、元孝治たち四人にモデルを薦めた一員でありながら、その辺の経過は見事にスルー。やがてその足は、建物の陰にある、せまい物置き場らしい空間へと向かっていた。それも無意識的に。

 

「あら?」

 

 涼子はそこに、ふたりの人影が存在していることに気がついた。しかもふたりとも、涼子がよく知る人物となっていた。

 

「荒生田さんと牧山さんやない♐ こげな場所でふたりだけで、いったいなんしよんやろっか?」

 

 そこは裏庭に一般家庭用の物置きが何個か置かれている所で、撮影現場からはまったく目が届かない場所となっていた。従って、秘密あるいは良くない内緒話をするには、まさに最適な現場でもあった。そのような言わば謀議可能な所に、今回の写真集責任者が隠れているのだ。これに疑いを抱かないお人好しなど、この世には絶対に存在しないだろう。

 

 涼子は始め、ふつうにふたりに挨拶をしようかと考えた。しかし、やめた。

 

「……なんか、今は顔ば出さんほうがええような気がするっちゃねぇ ふたりがなん言いよんのか、悪いっちゃけどこっそり聞いたほうがええみたい♐」

 

 ここはひとまず身を隠し、荒生田と牧山が本当になにを話しているのかを探るほうに、涼子は専念することにした。

 

幸いと言ってはなんだが、ここには物置きが何台も放置してあるので(あとで数えて五台だった)、かくれんぼにはまさに打ってつけの場所と言えた。

 

「なんでもなけりゃ、黙って『ごめんね☻』ってとこっちゃね

 

 などと自分自身を正当化。涼子は内心で、ペロリと舌👅を出した。もちろん涼子に見られているとは、夢にも気づいていない様子である。荒生田と牧山は周囲に誰もいないと思い込んでいる感じで、堂々と会話を公開してくれた。


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