『剣遊記超現代編T』 第四章 美女(?)漫画家のいちばん長い日。 (19) 次の日もまた早朝から、撮影は始められた。元孝治たち四人にとって皮肉なことに、このところ毎日撮影に絶好な快晴の日々も続いていた。それが理由というわけなのだろうか、本日の撮影は寮の庭――つまり初めて野外で行なわれた。
これも高い塀のある、私有地ならではの利点であろう。実際寮の庭はちょっとした庭園風であり、しっかりと池もあって、錦鯉が(あまり高級そうではないけど)呑気に泳ぎ回っていた。
話によればこの庭園は、少年ビクトリーのヒットで会社が儲けてから、税金対策などで急きょ建造したと、のちに元孝治たち四人は友美から教えてもらった。
「あたしたちもこの庭園作るのに、けっこう貢献しとうっちゃね☻ それが回り回って、自分たちのヌードの場になるなんちねぇ☢☠」
孝乃がこれも皮肉のつもりでつぶやいた。
「先生たち、毎日裸でよく頑張るよなぁ♋ 男のおれの目から見ても、感心して余るほどだぜ✊」
撮影スタッフに道具の運搬などで協力している砂津が、もはや好色を抜きにしてささやいた。美女(?)の全裸とはいえ、さすがに二日も仕事のようにして目に入れていれば、早くも『慣れた』――と言っても良い心境になっているようだ。
「なんか……おれも心配になってきたよ⛑ こんなことでもし連載が休載なんかになったら、おれたちの生活、いったい誰が保障してくれるんだ?」
砂津に対し枝光の心配は、もっぱら給料面からのようである。このように歳のせいもあってか、けっこう冷静なふたり(砂津と枝光)とは対照的。和布刈と井堀の若手組は、きょうもきょうとて元孝治たち四人に付きっきりで、撮影の手伝いに精を出していた。
また、元孝治たち四人のほうも頭の中身が男性そのままの理由もあって、撮影スタッフがほぼ全員ヤローばかりの中にあっても、裸を見せる行為自体に、大きな抵抗を感じなくなっていた。
こちらもある意味、『慣れた』と言うべきか。人間の順応性、まさに恐るべし――である。
「じゃあ四人そろってその木の前に立って、建物の方向を向いてもらおうかぁ☞ 君たちの美しい背中を、木立ちをバックにして写してみたいからぁ☞☞」
「「「「はーーい!」」」」
もはや本当に手慣れている感じ。元孝治たち四人が指示どおり、中原に背を向けた格好となって、庭園から寮の方向へと、体の向きを変えてやった。
無論、中原カメラマンの要求は、時間とともにエスカレートを重ねていった。
「次は広い所で、四人そろってのランニングねぇ!」
「よっしぃーーっ! じゃあ今度はふたりずつで、芝生の上で寝っ転がりと行こっかぁーーっ!」
「構想が決まったぁーーっ✌ ふたりずつに分かれて、真っ裸でテニスの試合の真似をしてみよう!」
「あのぉ……なんちゅうかぁ……へ……ヘアっちゅうのが見えるとなんですけどぉ……☠」
孝江は疑問を訴えたのだが無駄だった。
「ヘアぐらい、なんぼのもんじゃーーい! 今どきそんなの隠した写真集など無いわぁーーい!」
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