『剣遊記超現代編T』 第四章 美女(?)漫画家のいちばん長い日。 (2) 都内、某喫茶店の中。一番奥のテーブルに、荒生田と中原、牧山の三人が顔をそろえていた。
「あれから一週間は経つが、まだ返事は来ねえなぁ♨」
中原が苛立たしげに、コーヒーカップのコーヒーを、一気にグイッと飲み干してつぶやいた。
この短気そうなカメラマンに応える感じで、荒生田が牧山に訊いた。
「あのとき名刺をきちんと渡しておくよう言ってたけど、それは大丈夫なんだろうな?」
「は、はい!」
サングラスの奥で光る三白眼でにらまれた牧山が、ビクッと全身を固くした。ここは一応、先輩と後輩の関係であって、下の者が上の指示に従うのは当然なのだが、この牧山は特に、社内でも指折り級の小心者として有名。そこを見抜かれてか、仕事だけでなく私的な件であっても、ふだんから荒生田によって牧山はコキ使われていた。
とにかくビクビクの内心のまま、なんとかして先輩に答えようと、牧山が小さく口を開いた。
「そ、それが、そのぉ……☁」
「声が小さい!」
「すいましぇん!!」
これでまた先輩から一喝をされ、牧山の首が上着の中に、スッと引っ込んだように見える始末。まるで亀のようにして。
「……は、はい☁」
覚悟を決めた牧山は、やはり小さな声のまま、先輩とカメラマンに答えた。
「あのぉ……忘れてました☠ あのとき鞘ヶ谷先生たち四人に先輩の名刺を渡すつもりだったんですが、帰ってみたら、ぼくの背広の内ポケットに、そのまま入っていました☹」
「こん馬鹿ちぃーーん! それじゃなんにもならんやろうがぁーーっ!」
突然どこから出したものやら、荒生田のハリセンが炸裂! 牧山の頭をパーーンと叩く衝撃音が、せまい喫茶店内に反響した。
「もういい! おれが直接交渉する!」
まるで話が進行しない状況に業を煮やしたか、中原が椅子からスクッと立ち上がった。そのときあまりにもタイミングよく、荒生田の背広の内ポケットに入っている携帯電話が、プルルと振動を始めた。
「ちょっと待って✋」
立ち上がった中原を引き止め、荒生田が携帯電話を取り出した。
「おう、オレだが……ああ、浅生君か☆ ……わかった✌ 夕方時間が空くから、会社で話し合おう✍」
電話の相手は浅生友美。一週間待った写真集モデルの返事が、ようやく代理のかたちでかかってきたわけである。
その電話を、いったん切ったあとだった。荒生田がニヤリと口をゆがませ、おまけに前歯もキラリと光らせた。
「やっと返事がもらえるみたいだぜ⚠」
気色悪いニヤけ顔の荒生田に、中原が不審の表情で尋ねた。
「で、返事はどうなんだ? あの四人姉妹はヌードを承諾したのか?」
これに荒生田は、今度は含み笑い気味な顔になって応じた。
「いや、今回は一応、水着撮影だけってことで、まずは担当者もはさんでの話し合いから始めるってよ♐ オレはそこではヌードには触れないつもりだけど、撮影現場に入っちまえば、あとはその場の雰囲気と空気しだいで、彼女らを脱がすことも可能なんだからな☻☻✌✌」
やはりと言うべきか。それとも初めっからの想定内なのか。荒生田の悪だくみは、着々と進行しているようである。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |