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『剣遊記超現代編T』

第四章 美女(?)漫画家のいちばん長い日。

     (13)

 次の日は早朝から、海岸での撮影が再開された。

 

「よしっ! まずはきのうのように、波打ち際で走り回ってもらおうか

 

 カメラのピントを合わせながら、中原が元孝治たち四人に指示を出す。

 

「「「「はーーい!」」」」

 

 四人は言われたとおり、きのうに引き続きのビキニスタイルで、砂浜と海水の境界をバシャバシャと、大きな水しぶきを上げて走り回ってやった。

 

 だけどきのうのご機嫌ぶりと全然違って、きょうの中原はどこか、覇気に欠けているような感じがしていた。

 

「ねえ、どげん思う?」

 

 波しぶきを立てながら、治花が孝江にそっとささやいた。

 

「なにが?」

 

 孝江が振り返ると、治花はそっと、砂浜のほうに顔を向けた。

 

「きょうの中原さん……さっきからずっとカメラばいじくったまま、まだ一枚も写そうとせんとやけど、いったいなん考えよんやろっかねぇ?」

 

「……言われてみれば、そんとおりっちゃねぇ♋」

 

 孝江もうなずいた。きのうはあれほどたくさんの写真を撮ったというのに、きょうはそれこそ一回も、カメラのシャッターを押していないのだ。

 

「おれ……じゃないあたし、ちょっと訊いてみよっか?」

 

 治代が小さな声で、孝江、孝乃、治花相手にささやいた。それを孝乃が右手を出して止めさせた。

 

「いや、行くんやったら四人そろって行ってみるっちゃよ✈ どうもひとりじゃ、中原さんの口車に乗ってしまいそうやけ

 

「「「「そうっちゃね」」」」

 

 けっきょく四人で、悩めるポーズ(右手を額に当てて、砂浜ばかりを見つめている)をしているカメラマンの所まで寄ってみることにした。


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