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『剣遊記超現代編T』

第四章 美女(?)漫画家のいちばん長い日。

     (12)

 そこには体をバスタオルで巻いているだけの、元孝治たち四人がいた。さらにそのうしろでは友美と涼子も、やはり同じスタイルをしていた。

 

 当然脱衣場の扉は開いており、和布刈と井堀、さらに牧山も、六人の女性のバスタオル姿を目の当たりにする結果となった。つまり元孝治たち四人は共同で、荒生田に見事な背負い投げを決めたわけ。かなり表現がむずかしいのだが、これも息がそろった――と言うよりも、ほぼ同一な四人だからこそ可能な技なのであろう(話に無理があると言ってはいけない)。

 

 とにかくこのような飛躍しきった状況下で、孝江が代表して(?)叫んだ。

 

「うわっち! み、みんななんしよんねぇ! ここは女湯なんやけねぇーーっ!」

 

 ついでにパラリと落ちそうになったバスタオルを、慌てて両手で持ちあげて一大事を防ぐ。ここで自分の立場(覗きの悪だくみ中)を忘れ、和布刈が元孝治たち四人に、驚き声で尋ねたりもする。内容はしっかりとした言い訳なのだが。

 

「せ、先生たちも、いつの間に上がったんですか!? おれたちは、そのぉ……ジュースを差し入れに来たんですけどぉ……♋」

 

 セリフの後半はさすがに罪の意識もあってか、口調がおおいに澱み気味。これに今度は、孝乃が言い返した。

 

「なんか、ドアん外からひそひそ聞こえたもんで、もしかして痴漢かっち思うて、おれ……あたしたち四人で先に上がって待ち構えとったと! そげんしたら入って来たんが荒生田さんやなんち、こっちこそいったいどげんことぉーーって言いたいっちゃよ!」

 

「それで、もし本当に痴漢だったら、先制して背負い投げしてやろうって、わたしと涼子ちゃんはうしろに下って、先生たちが待ち構えていたんだけど、それがまさか荒生田さんの親切な差し入れだっただなんて……♋」

 

 孝乃のセリフを自主的に続けてくれた友美も、その瞳は真ん丸く、思いっきりの困惑であふれ返っていた。

 

「と、とにかくぅ……失礼しましたぁーーっ!」

 

 それこそ『とにかく』の絶叫どおり、牧山、和布刈、井堀の三人が、大慌てで女湯から飛び出した。荒生田ひとりを現場に残して。

 

 なお、当の荒生田は、いまだに気を失ったまま。

 

「この人……どうすんの?」

 

 涼子がさすがに困った顔をしてあとの処置を尋ねるが、誰も明確には答えられなかった。でもってけっきょく、なんだかシラけた気分になったので、全員風呂から上がるようにした。

 

「……朝になったらたぶん、目が覚めるだろ☻」

 

 治代のお終いのセリフで、荒生田はこのまま、本当に朝までほって置かれる顛末となったしだい。


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