『剣遊記超現代編T』 第四章 美女(?)漫画家のいちばん長い日。 (11) 「すみませぇ〜〜ん☁」
牧山が馬鹿正直にも、女湯の入り口にノックをした。
コンコンコンと、三回右手で叩いて。
特に中からの応答はなかった。
「せ、先輩……さ、さ、鞘ヶ谷先生たちも浅生さんも、ま、まだ入浴中のようですね☂」
牧山の態度は、見た目にはっきりわかるほどの、オドオド気味。その点荒生田のほうは、鉄の意思とでも言うべき頑丈さを見せつけていた。
「ゆおーーっし! 先生たちへの差し入れのためじゃあ☀ これも写真集成功のための、栄光ある第一歩なんだからなぁ✌」
なぜか自信たっぷり気な声を上げ、荒生田が今度は自分の右手でドアノブをつかみ、そっと脱衣場の扉を開けた。さすがにこれは、音を立てないよう静かに――であった。もちろん女性メンバー全員が入浴中なのはわかっているので、脱衣場に人の姿はなかった――と、ここまでは想定の範囲内。荒生田は自分が一番となって、まずはサングラス付きの顔を、脱衣場の中に無言と無音で忍び込ませた。
この時点では誰ひとり気づいていないのだが、サングラス😎の奥の三白眼が、欲望で見事に光り輝いていたのだ。
ここでまた、荒生田はささやいた。
「鞘ヶ谷先生……の皆さん、差し入れを持ってきましたよぉ☻」
ちなみにこのサングラス男の言う『差し入れ』とは、近所のスーパーで買っただけの、ジュースやコーヒーなど缶入り飲料水のこと。
実に安上がりである。
「先生たち、湯上がりには冷えた飲み物が一番ですからねぇ☻ 今持って行きますよぉ☠」
ある意味気色の悪い荒生田のささやき声を、うしろにいる和布刈と井堀は、今やうんざり気分で耳に入れていた。
「ほんとにこの人、未来出版のエリート編集者なの? なんか下心がサングラス😎かけてるようにしか見えないんだけど⚠」
「先輩……おれもそう思います⛐」
だが次の瞬間だった。あきらかに無警戒で脱衣場に足を踏み入れた荒生田の背広の胸ぐらを、いきなり誰かが、ガシッとつかんだのだ。
「ゆおーーっし……って、あれぇ?」
荒生田自身は今の自分の状況に、まるで理解ができていない感じでいた。なにしろ胸を急につかまれたと思ったら、全身が一気に宙へと舞い上がったからだ。
「「「「とあーーっ!」」」」
続いて聞こえた掛け声は、女の子四人の混声であった。
「わわあーーっ!」
けっこう長身である荒生田の体が空中に浮かび上がり、次の瞬間にはドカンと、脱衣場の木の床に叩きつけられていた。
背中から。
この衝撃でもサングラスは、一ミリもズレてはいなかった。だけどさすがに、荒生田は意識を失った。
それからすぐに気がついた。ただし気がついた者は荒生田ではなく、彼を混合で背負い投げした、四人の女性のほうであった。
その背負い投げをした女性――元孝治たち四人が、一斉に叫んだ。
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