『剣遊記T』 第七章 ひとつの冒険が終わって、また……。 (7) 「いろいろ助けてもろうて、ほんなこつありがとうございます♡ このお返しは、いつか必ずしますけん♡」
「そげん気ぃつかわんでもよかぞ☀ またいつでも、いっしょに仕事する機会もあるけんな✈ それじゃ、俺はこれでな☆」
「はい、先輩☀☆」
ケンタウロスの体形上、階段上がりが不得意である帆柱と別れ、孝治は友美を連れて、二階へ上がった(もち涼子も同伴)。
戻ってくるなり、すぐに執務室の黒崎へ、帰店の報告を行なう。それが店の決まりであるからだ。
すると今度は、階段を下りてくる由香と彩乃のふたりと、バッタリ鉢合わせとなった。
「あっ、孝治くんに友美ちゃん、お帰りなさい♡」
「やっぱり、わたしんほうが早かったばいね♡」
由香はともかく彩乃とは、ついこの間会ったばかりである。
「ふたりとも、なんかあったと? そろって店長んとこに行っとったみたいっちゃけど♐」
友美が尋ねると、由香が顔を上げて二階に振り返り、なんだかうれしそうな顔になって理由を言ってくれた。
「店長の執務室に今、新人さんが就職希望で来とるとよ☆ あたしたち、たった今紹介してもろうたと♡」
「就職希望け?」
それは今ごろ珍しいっちゃねぇ――と、孝治は思った。未来亭への新人の入社は、ふつう春先である場合が多いものだが。
不思議に思って、頭上に恒例の『?』を浮かべる孝治とは対照的。由香と彩乃は、それこそウキウキな顔だった。これは単純に、新しい仲間が増えるのが、楽しみなのであろうか。
それを実証するかのようだった。彩乃がペラペラとまくし立ててくれた。相変わらず、よくしゃべるヴァンパイアである。
「そしてね、驚いたらいかんばい♡ そして今度の新人さん、孝治くんと友美ちゃんにとって、すっごく意外な魔術師と騎士の組み合わせなんやけ☻ そして実は、わたしにとったか意外なんやけどね♡」
「意外な魔術師けぇ?」
孝治は背中にブルルッと、戦慄を感じた気分になった。今回の冒険では、一風変わった魔術師によって、どエラい目に遭わされたばかりなのだ。それなのに再び、同じような組み合わせが現われるとは。
孝治の胸に、ドス黒い嫌な予感が浮かび上がった。
(まさかあいつらが……なんち、偶然にもほどが有り過ぎってもんやろ☠ 見え見えなオチも、たいがいにせえっちゅうもんばい!)
「おまけにね、そん魔術師っちゅう人が、すっごい綺麗な人なんよ♡ あれやったらあたしかて、負けば認めてもええってくらいっちゃね♡」
続く由香のセリフが、孝治の心臓を、さらにドキッとさせてくれた。
「も、もう、それ以上言わんでもよか!」
孝治は頭を左右に振りまくり、よけいな予想を打ち消した。そこへ彩乃が、小悪魔の微笑みで言ってくれた。何度も申すけど、実際にそうであるのだから――byヴァンパイア{吸血鬼}。
「うふっ♡ 孝治くんもお楽しみみたいやねぇ♡ そしてこれは絶対きゃーまくる(長崎弁で『ビックリする』)っち思うばい♡」
彩乃の言葉には、裏側でなにかを隠している感じがありあり。まさにいたずらを楽しむかのごとく、可愛く舌をペロリと出した。ついでにヴァンパイアの犬歯も。
孝治はもはや、ふたり(由香と彩乃)の話を、お終いまで耳に入れなかった。とにかくそのまま大急ぎ足で、階段を二階へと駆け上がった。
「まさかやねぇ……おれの考え過ぎば祈るしかなかっちゃね☠」
あせる気持ちを、孝治は抑えられなかった。もちろんあとから、友美と涼子も続いていた。
「どげんしたとぉ、孝治ぃ! 急に走り出してからぁ……ってたぶん、孝治もわたしとおんなじこと考えてんのやねぇ☠」
『それってきっと、あたしもおんなじっち思うっちゃよ☠』
うしろのふたり(友美と涼子)のつぶやきを耳に入れ、階段を急ぎながら孝治は思った。
(友美と涼子も、おれとおんなじ頭の構造っちゃねぇ〜〜☠) (C)2010 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |