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『剣遊記T』

第七章 ひとつの冒険が終わって、また……。

     (5)

「我々は耶馬渓に帰る⛐ もうあいつとは、なんの関係もなかことやしな☀」

 

 孝治との別れ際、八人の騎士たち全員が、見事な晴れ晴れ顔になっていた。

 

 『あいつ』――合馬の忌まわしいパワハラ的呪縛から、ようやく解放された気分なのであろう。騎士のひとりが、ぬけぬけと言ってくれた。

 

「いろいろすまんかったのぉ♠」

 

「もう、よかっちゃよ♡☠」

 

 孝治は苦虫気分で顔面を引きつらせながら、一応笑って返してやった。

 

(いつか絶対、仕返ししちゃるけ☠ 女のおれに、すっごい恐怖ば与えてくれたお礼をやね☠)

 

 ついでにどうでも良いことを、騎士たちが立ち去ったあとで、急に思い出したりもする。

 

「最後に言うてくれた騎士さん、初めて未来亭に来たときに見た、変に威張っとったあの青二才ばい☠ まあ、ほんなこつどうでもええ話やけど、戦ってる間は、いっちょも気ぃつかんかったばいねぇ✄」

 

 さて、けっきょく配下の騎士連中から見捨てられた感のある問題のパワハラコンビ――合馬と朽網のご両人であるが、ふたりはいまだに、不貞腐れた態度のまま。孝治は気を遣{つか}って、今もあぐらをかいている両名に訊いてみた。

 

「あんたらはこれからどげんすると?」

 

「知るかってんでえ!」

 

「…………☁」

 

 合馬の返事は、やはりで横柄な態度のまま。また朽網に至っては、もはや無反応の有様だった。

 

(ひねくれた中年ほど、見苦しいもんはなかっちゃけねぇ☢)

 

これは孝治の率直な気持ち。

 

「じゃあ、ほっとくけね☠」

 

 孝治としても、グズグズとふたりに付き合う義理はなし。一同はこれにて解散。元の鞘へと収まる結末になった。

 

「孝治ぃっ! 遅かぞぉ!」

 

「すみませぇ〜〜ん、先ぱぁ〜〜い!」

 

 合馬たちと別れたあと、孝治は急いで、すでに先行している帆柱と友美を追い駆けた。

 

 けっきょく、美奈子護衛の仕事は、中断の格好。孝治は帆柱の誘いでキャラバン隊護衛の仕事に就き、北九州へ戻ることにした。そのための最初の目的地が、宮崎市であった。

 

 灰が積もる山道を下りながら、帆柱が孝治に話しかけてきた。

 

「友美ちゃんから話ば聞いたんやが、あの女魔術師が孝治を女に変えたかもしれん、っちゅうことやないけ♐」

 

 『やっぱ言われてしもうたっちゃねぇ☁』と内心で苦笑しながら、孝治は帆柱に返事を戻した。

 

「まあ、そうらしいんですけど、そんことはもうよかですよ☻ 本当のことはなんもわからんし、おれは女としての第二の人生ば歩みますけ☀」

 

「孝治がそげん言うとやったら俺は口出しせんが、それよか、おまえが言うた『おれの依頼人に手ぇ出すんじゃなか♨』っちセリフ、なかなかカッコよかったけんな☻ あれは俺かて、そげん言えるもんやなかばい☀」

 

 帆柱は、特に説教を垂れるわけでもなし。むしろ孝治にとって、顔面がポッと赤くなるような、お誉めの言葉を言ってくれた。

 

「うわっち! せ、先輩……そげな恥ずかしかこつ、言わんでくださいよぉ……♥」

 

 あるいは単に、冷やかされているだけなのだろうか。とにかく尊敬している先輩から称賛(?)され、孝治はなんだか、今までの苦労が百年分も報われたような気になってきた。

 

「あ、ありがとうございます! そう言ってくれるだけで、おれはうれしかです♡♡」

 

 孝治は帆柱に向け、ペコペコとお辞儀を十回行なった。そのついで、周辺をキョロキョロと見回し、帆柱には聞こえないよう、そっと友美にささやいた。

 

「ところで……なんやけど、涼子はまた、どこ行ったっちゃろっか? またまた行方不明になっとうっちゃけど✐」

 

 これに友美が、ふふん☺と鼻を鳴らすような感じで答えてくれた。

 

「そげん心配せんかて、すぐ追い着いてくるっち思うっちゃよ☺ わたしかてもう慣れたっちゃけど、涼子ってほんなこつ、風船🎈みたいな性格なんやけ✌」

 

「そうっちゃねぇ〜〜♐」

 

 孝治もすぐに、友美に同感の気持ちとなった。それからまさに、彼女が言ったとおり、後方から涼子の大きな声(散々しつこいけど、帆柱には聞こえない⛔)が響いてきた。

 

『またあたしば置いて先に行ってからくさぁーーっ! あたしがちょっと寄り道しよう間に、さっさと出発せんとってやぁーーっ!』


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