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『剣遊記T』

第七章 ひとつの冒険が終わって、また……。

     (2)

「さて、と……♦」

 

 孝治たち三人のうしろでは、帆柱が大きくひと息を吐いていた。

 

 さすがにこれにて、ひと安心――といったところらしい。鎧と馬体にかぶった灰を両手で掃いながら(全身は不可能なので、あとで孝治も手伝った)、四本の腱脚で、よっこらしょと立ち上がった。

 

 それから周辺を見回して、帆柱が断言した。

 

「ふ〜む、ここはどうやら、日南市の外れのようっちゃねぇ♠」

 

「うわっち? 先輩、ここがどこだかわかるとですか?」

 

 孝治は自分の耳を、一瞬だが疑った。友美でさえ正確な位置の把握ができないので、幻影地図の術が使えないのだ。しかし帆柱は現在位置を、はっきりと口にしてくれた。

 

 そんな驚きの孝治に、帆柱が言ってくれた。

 

「冒険ば生業{なりわい}にしとるとやったら、日本中の地理ばしっかり頭に叩き込んでおくもんばい✍ 孝治は肝心なときに友美ちゃんの魔術に頼ってばっかしやけ、大事なときに迷子になるったい♐」

 

「す、すんましぇん……☂」

 

 思わぬ所での帆柱からの説教で、孝治は頭をシュンとうつむかせた。そんな孝治を余裕の笑みで見下ろしつつ(ケンタウロスは、とにかく背たけが高い)、帆柱が話を続けた。

 

「まあ、ええ☺ それはもうよか✋ それよか俺としては、店長から言われた助っ人の仕事は一応終わったけ、このあと宮崎から北九州に向かうキャラバン隊の護衛の仕事ば取ってあるとやけど、孝治もいっしょに来んね?」

 

「先輩! もう次の仕事ば取ってあったとですか!?」

 

 早くも新しい段取りに入っている帆柱の熟達ぶりに、孝治はまたも大きく驚き、また感心もした。そのついで、先輩からの誘いを受けながらも、孝治はある件を急に思い出した。

 

「護衛……うわっち! そうやった!」

 

 そう。自分自身の立場を――である。

 

「そげん言うたらおれって、美奈子さんの護衛が、まだ終わっとらんかったっちゃねぇ☆」

 

 さらにもうひとつ。最も重要な疑問も、美奈子に尋ねないといけない。孝治は帆柱に顔を向け、両手を合わせて頭を下げた。

 

「すんません、先輩☹ そん返事、ちょっと待ってくれませんか?」

 

「ああ、よかっちゃぞ☆」

 

 帆柱が大きくうなずいてくれた。

 

「ほんなこつ、すんません!」

 

 これにて帆柱への返事は、一時保留のかたち。孝治は別の所の高台にそびえる、一本の大木の下、火山灰を避けて千秋とふたり、肩を寄せ合ってジッとたたずんでいる、美奈子の元へと駆け出した。

 

「あっ、わたしもぉ!」

 

『ちょっと待ってよぉ!』

 

 友美と涼子も、あとを追ってきた。


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