『剣遊記T』 第七章 ひとつの冒険が終わって、また……。 (1) 天から降り注ぐ火山灰が、見渡す限りの大地を、見事な灰色一色に染めていた。
おまけに困った状況として、現在地がまったくの不明。
それでも火山の大噴火から、奇跡的に生き延びる幸運となったのだ。だからこれらの光景が眺められる僥倖{ぎょうこう}も、命あってのめっけものであろう。
韓国岳{からくにだけ}が大爆発。
その瀬戸際だった。美奈子が『瞬間移動』の魔術で、全員を安全な場所まで移送をしてくれたのは。
ただし、緊急中の緊急事態である。美奈子も移送先まで選択する余裕など、まったくなかったのだ。
誰が彼女を責められようか。
だけど霧島山系からは、かなり遠くに離れたのは確かであった。
孝治は現在、自分の居場所が把握できないまま、周囲が見回せるどこかの高台の上で立ち尽くしていた。そこで改めてよく見れば、この場には総勢十五人がいた。その内訳は孝治と友美、美奈子に千秋に帆柱。さらに合馬と朽網。八人の騎士たちもいた。ついでながら角付きロバ――トラも、きちんと千秋のそばに寄り添っていた。
全員が全員(孝治含む)、頭に灰をかぶってはいるが、欠員はひとりもなし――訂正、ひとりいた。
「うわっち? 涼子は?」
孝治は自分の右横に立つ友美に、ふと尋ねたあと、もう一回周辺を見回した。あの小うるさい涼子の姿が、影もかたちも見当たらなかった。
幽霊だから、元から影もかたちもないのだけれど。
「それがぁ、わたしもわからんとやけど☁」
友美も周辺を見回しながら、ポツンと答えてくれた。その直後だった。
『孝治ぃーーっ!』
「うわっち!」
これも恒例過ぎる黄金パターンと御都合主義であろうか。噂をすれば、なんとやら。涼子がまたも、霧島らしき方向から、けっこうな快速スピードで飛んできた。
孝治は思わずムッとした気分になり、口を尖らせて文句を言ってやった。
「いったい今まで、どこ行っとったとや! ほんなこつ心配したんやけね!」
もちろんこの程度のお叱りなど、涼子には全然効き目なし。すでに孝治、友美と涼子の関係は、今や早くも慣れ親しいの段階に入っているのだ。
それはとにかく、涼子は凄くはしゃいでいた。
『怒られてうれしかぁ〜〜♡ あたしんこつ、ほんなこつ心配してくれたっちゃねぇ♡ そやかて、ちょっとまた火山ば見学しよったら、急にみんなおらんごとなってしもうて、あたしかてあっちこっち捜したんやけね♥』
「そ、そうやったと……☁」
そこはさすがに悪い気になって、孝治は声のトーンを低めにした。
「お、置いてったんは、こっちが悪かったけどぉ……幽霊の心配なんち、いっちょもせんかったけね!」
『うふっ♡ 無理しちゃってくさぁ♡♡』
「しゃ、しゃあしぃーったい!」
涼子からちょっぴりからかわれ、孝治は自分の顔の赤面化を、この場でも大きく感じることとなった。
「ま、まあ、涼子んこつ心配したんはわたしもおんなじやけ☺ それよか、とにかく無事で良かったっちゃね♡」
これで一応は、助け舟のつもりらしい。それはまあ置いて、友美もうれしそうな顔になって、孝治と涼子の間に入ってくれた。ここで前のページにあった、涼子の火山体験記が始まるわけである。 (C)2010 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |