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『剣遊記11』

第一章  嵐を呼ぶひと目惚れ。

     (7)

 剣の修練が一応終了。ようやく汗の引いた帆柱と孝治の所へ、いったいいつの間に中庭へと参上したのだろうか。店長の黒崎氏が声をかけてきた。しかもきょうは、なんとお伴を四人も連れていた。ちなみにひとりは、秘書の勝美。彼女はいつもどおり、黒崎の右肩の上で、羽根を羽ばたかせていた。そうなると、勝美以外の三人が問題であった。

 

「うわっち! 沙織さんに泰子さんに浩子さんじゃん☀」

 

 孝治はすぐに、瞳を丸くした。急に現われた黒崎が、自分の両側に彼の従妹とふたりの友人を連れていたからだ。もちろん孝治、友美、涼子とは、すでに顔馴染みの三人であった(注 涼子のみ難あり⚠)。

 

「また北九州に来とったんやねぇ♡ おひさしぶりっちゃねぇ♡」

 

 友美がすぐに沙織たちの前に駆け寄り、まずは丁寧な挨拶を行なった。

 

 沙織もニッコリと微笑んだ。

 

「ほんと、おひさしぶりよねぇ♡ あっ、そうだ! ひさしぶりと言えば、板堰先生はお元気してるかしら?」

 

 孝治、友美と再会したついでだろうか。自分自身にとって最も印象深いであろう人物名を思い出した沙織が、勢い込んだ感じで、友美にそれを尋ねた。

 

 友美もすぐに、思い出したご様子。

 

「え、ええ、板堰先生っちゃね♡ もちろん未来亭で働いてますっちゃよ♡」

 

「板堰先生やったら弟子の大介といっしょに、今は東北の宮城県まで遠征に出とるっちゃよ♡」

 

 孝治も友美に付け加え。

 

「なんちゅうたかて、全国的に名のある剣豪やけねぇ✌ やけん日本中の名門貴族から『お家騒動』の解決依頼がようあって、おれかてもうずいぶん会{お}うてないっちゃねぇ♥」

 

「そうなの……残念だわぁ☂」

 

 孝治からの説明を受けた沙織が、ここで深いため息をひとつ。

 

 なお、誰もが彼を『先生』付けで呼称するとおり、板堰守{いたびつ まもる}なる人物は、日本全国にその名を知らぬ者がいない、名立たる戦士である。しかもそれほどの人物を未来亭に引き入れた功績の持ち主は、当時代理で店長を務めていた沙織であり、彼女はそれを、今でも大きな誇りに感じているのだ。

 

 だからこそ北九州市を再度訪れたときは、ぜひもう一度お顔を拝見したいと沙織は思っていた――と、あとで孝治は泰子から聞いた。

 

 そんな沙織たちの頭上を、失礼にもプカプカと浮遊しながらであった。

 

『ふぅ〜ん♡ シルフとハーピーのふたりが、今回もごいっしょっちゅうわけっちゃね♡ 相変わらずおもしろか三人組っちゃねぇ♡』

 

 涼子が沙織たちを、上からジロジロと眺め回していた。この状況が唯一わかっている孝治と友美は、もうハラハラドキドキの緊張感で、胸がいっぱい。なにしろ前述のとおり裸の姿で、周囲を飛び回っているものだから。


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