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『剣遊記11』

第一章  嵐を呼ぶひと目惚れ。

     (2)

 泰子の服装は、その優雅な仕草に、とてもふさわしい感じ。ホワイトとグレーの二色で統一をした、上下の活動的なスーツスラックス。そのためか、泰子の姿勢全体から、なんとも言えない冷厳さまでが、黒崎の前まで漂ってくるように感じられた。

 

 その冷厳とも威厳とも思える雰囲気を真正面から受けながら、黒崎は言葉を続けた。

 

「なるほどぉ……シルフかぁ……君も僕が初めてお会いする種族だがや。まさにこうしてご拝見させてもらうと、世界はまだまだ広いもんだがね」

 

「それってなんだか、仕事でいつも世界中を飛び回ってる、お兄様らしくないお言葉ですわ☞☝」

 

 沙織が妖しげな微笑を浮かべ、自分の従兄を揶揄してくれた。その右横からやんちゃな性格どおり、またも浩子がしゃしゃり出た。それも自慢にしているであろう翼をパタパタと羽ばたかせながら、浩子は誰からも訊かれていないのに、一気にまくし立てた。

 

「ねえ、ねえ、わんだら知ってるぅ? 沙織ったらまた泰子の力借りて、絨毯で九州まで来たんだでぇ☆ ほいであたしは見てんとおり、自分の羽根で空を飛んで来たじゃんかよぉ♡」

 

 このハーピーなる種族。なぜか一族全体が女性ばかりで、しかも思いっきりにやかましい――または姦{かしま}しい性格が、大きな特徴とされていた。

 

「ほほう、それはまた、どんな風にがやか?」

 

 幸か不幸か。黒崎が浩子の無駄話に、聞き耳を立てた。すると浩子は、すぐに得意そうな顔となり、一族の血脈に従ってか。これまた思いっきりのご吹聴を始めてくれた。

 

「おいさぁ、それは泰子が風になって、沙織を絨毯ごと空を飛ばすんべよぉ♡ いいあんばいで泰子が風になったら、きっと世界ですてれっぱつ速いと思うんぺぇ♡☀」

 

「なるほどぉ」

 

 かなりうるさい、浩子の早口であった。だけど黒崎は、やはり澄ましてうなずく姿勢を貫いた。

 

「泰子さんはシルフであるから、それも当然かもしれんがや。そうなれば、これはぜひとも彼女のパワーを、いつか拝見させていただきたいもんだがね」

 

「はい♡ わたすならいつでもOKっけ♡」

 

 当の泰子も、黒崎に負けない澄まし顔で応じた。そのついでか。泰子は自分の左側にいる沙織にも、同時に顔を向けていた。

 

 このわたすなら、いつでもがりっとシルフの底力を見せてもええんだぁ♡ あとは沙織の許可しだいだべぇ――泰子はそのように、言いたげだった。

 

もちろんこの意思は、即座に沙織にも伝わっていた。固い友情でガッチリと結束している彼女たちは、簡単な目くばせだけで、意思の疎通がいつでも可能なのだ。しかし沙織は、初めは少しだけ、ためらうような表情を見せた。それからシルフ――泰子を代弁するつもりで、沙織は従兄の黒崎に尋ね返した。

 

「パ、パワーはいいんだけどぉ……その代わり、この部屋が散らかると思うの……特に勝美さんは避難したほうがいいかも? それで良ければ……いいかしら?」

 

「言ってる意味がよくわからんが、まあ、多少のことなら大丈夫だがや」

 

 従妹からの念を押すような問い掛けで、黒崎はやや小首を傾げる仕草をみせた。しかし、ここまで話が到れば、懸念よりも好奇心のほうが優勢するもの。それから事務机の上にいる、勝美に黒崎は顔を向けた。

 

「と言うわけらしいがや。勝美君は言われたとおり、避難したほうがいいかもしれん」

 

「いえ、私はいっちょん大丈夫です☆✌ 私かてなんやろー?の気持ちで見てみたいですから♡」

 

 そうは言いつつも勝美は、すでにしっかりと、机の角に両手でしがみついていた。ある程度の覚悟は、とっくにできているようである。


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