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『剣遊記[』

第三章 三枝子とひなワシ。

     (8)

「ああ〜〜、やっと追い着いたっちゃねぇ……って、うわっち! なんねぇこれぇ!」

 

 三枝子から遅れること半刻。ようやく孝治たちは現場に到着した。ところがすでに、戦いはほとんど終わりかけていて、現在決着の寸前となっていた。

 

 しかも三枝子の足元には、迷彩服を着た見知らぬ男が、ふたりも横たわっていた。おまけに今、やはり迷彩服を着て弓矢を構えている男と、対峙をしている真っ最中であったのだ。

 

「な、なんがあったとやぁーーっ! これってぇ!」

 

 清美が大声で叫んだ。だが射手とのにらみ合いに現在命を張っているとしか思えない三枝子の耳まで、まったく届いていないようだった。

 

 もっともその緊張は、弓矢の男も同様みたいである。ただこちらの場合、弓を三枝子に向けていながらも、肝心の両足がガタガタと震えていた。

 

 見かけは射手でありながら、どのように見ても、素人以下の焦点しか定まっていない。少なくとも孝治の瞳には、そのように感じられた。

 

「なんやようわからんちゃけど、勝負はもう決まっちょうっちゃね♐」

 

 それでも男は奇声を上げ、三枝子に向けて矢を放った。

 

「ぎょえーーっ!」

 

 これは狙いが定まったわけではなく、恐怖心が限界に達したとみるべきであろう。この場への突然の新しい闖入者である孝治たちに、まったく目を向けようとしないほどであるから。

 

 その余裕の無さはさて置き、放たれた矢がビュンと、宙を飛んだ。しかし、及び腰のヘタレ腰で撃たれたヘロヘロな矢であるのだ。三枝子はこちらは余裕ありありの表情で、その矢を泰然と待ち構えていた。しかも、自分の目前まで達する寸前だった。空中でなんと、その矢をガシッと、右手でつかみ取る離れ業を演じてくれた。

 

「うわっち! す、凄かぁ〜〜!」

 

 孝治は思わず、裏返った声を上げた。いくらふらふらの矢であったとはいえ、素人では絶対不可能な、空中つかみ取りであったから。

 

 これはまさしく、三枝子の神業。不謹慎ながら荒生田先輩でさえ、拍手喝采👏を惜しまなかったほど。

 

「ゆおーーっし! 素晴らしかぁ! おらあっ、おめえらも拍手ばせんねぇ!」

 

「は……はい!」

 

「ほんなこつ、凄かぁ〜〜!」

 

 荒生田からなかば強制され、裕志と孝治も手を叩いた。そんな中で清美だけが、一目散に三枝子の元へと駆け寄った。

 

「ちょ、ちょっとぬしゃあ! なんち馬鹿んこつしよっとねぇ!」

 

 三枝子は余裕から再び緊張の面持ちへと戻り、右手でつかんでいる矢を両手に持ち替えてバキッとへし折ってから、清美に応えた。

 

「……こいつら密猟者なんばい♨ やけん絶対許さんと!」

 

「密猟者?」

 

「そげんやったとぉ……☟」

 

 言われて清美が、それから孝治も、弓矢の男に顔を向けた。ところがそいつは口から泡を噴いている状態で、とっくに地面の上で仰向けに倒れていた。

 

 どうやら勝手に気絶をしたらしい。別に殴る蹴るなど、ボコボコにしたわけでもないのだが。


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