前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記[』

第三章 三枝子とひなワシ。

     (7)

 はっきりと申して、彼らはここまでしないほうが良かった。

 

 これより他に、もっと穏便に済ませる方法もあったはずなのだ。

 

 だが、このようなよけいな脅迫までもしてしまったばかりに、三枝子を完全に、本気モードへと導く結果になったのだ。

 

「だあーーっ!」

 

「な、なん!?」

 

 三枝子が奇声を張り上げた。次の瞬間、弓矢の男は突如目標物を見失い、左右をキョロキョロと見回した。恐らく男の視界からは、三枝子が一瞬にして蒸発したかのように見えたのだろう。

 

「ど、どこね! どこ行ったとやぁ!」

 

 だが、弓矢男が次に気づいたときには、三枝子はイヌワシをかついでいる男の面前、わずか数センチにまで迫っていた。

 

「ええっ?」

 

「あたあーーっ!」

 

 これで驚くよりも前に男は、ボグッと顔面に右拳を叩き込まれた。あっと言う間もなく、鼻血と前歯のカケラを撒き散らし、白目を剥いてぶっ倒れた。

 

「て、てめえーーっ!」

 

 なぜ彼女が怒っているのか。その理由を知る気など、さらさらないだろう。しかし、いきなり仲間が目の前で手酷くやられたとあっては、これは黙っているわけにはいかないに決まっていた。すぐに残りの手ぶらでいる密猟者が、三枝子に飛びかかろうとした。

 

 片や迷彩服姿の屈強な大男。対する三枝子は小柄な若い女性――と、見かけではそうなっていた。だけど実力は正反対だった。

 

「あたたたたたたたたっ!」

 

「ぐぼごぼっ!」

 

 三枝子は大男の太鼓腹に、手刀の連打乱れ打ちをお見舞いしてやった。それもまさに、目にも止まらぬ早業の連続で。

 

 格闘士として充分以上に鍛えられている三枝子にとって、乱暴だけが取り得の下郎どもなど、最初っから問題になどならないのだ。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system