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『剣遊記[』

第三章 三枝子とひなワシ。

     (6)

「こん辺りばいね☟ 鷲が落ちたんは☟」

 

「そぎゃんようばいねぇ☛ 巣ぅ近くで張っとったら必ず親が帰ってくるけ、きょうの狩りは楽勝やったばい♡」

 

「もう一羽崖に引っ掛かっとうけ、あれもあとで取りに行こうや♡」

 

 密猟者と思われる男たちが三人。藪をかき分け、待ち構えていた三枝子の前に、ひょっこりと姿を現わした。

 

 三人とも、獣の毛皮を着込むような、本職の猟師ではないようだ。また、ふつうの市井の格好とも異なり、緑を主体とした野戦風迷彩模様の軍服を着ていた。

 

 もちろん彼らは、すぐにイヌワシの死骸のそばに立つ、格闘士姿の女性に気がついた。

 

「おっ? なんや、おめえ♋」

 

 この男たちに、三枝子がなぜ今この場所にいるのかの理由など、最初っからわかるはずもないし、知ろうとも思わないだろう。なにしろ彼らの興味は、彼女の足元に転がっている、イヌワシの死骸だけ。それ以外はまるで、眼中の外であるのだから。

 

 そんな連中なので、密猟者のひとりが横柄な口調でもって、三枝子に言い放ってくれた。

 

「どぎゃんしておめえがここにおるかは知らんとばってん、そん鷲は俺たちのモンやけな♐ やけんとっとと消えや✄」

 

 背中に矢と筒弓を背負っている格好を見ると、こいつがイヌワシを撃った犯人に違いない。無論、彼らの勝手極まる退去勧告など、三枝子が素直に従うはずはなし。それどころか逆に、三人をにらみ返し、怒りの感情をぶち撒けてやった。

 

「あんたたちね! イヌワシば殺したんは!」

 

「はあ?」

 

 にらまれた三人とも、なにがなんだか訳がわからん――とばかり、そろって怪訝な顔付きとなった。それには構わず、三枝子は震える声での叫びを続けた。

 

「こん鷲は夫婦でヒナば育てよったとよ! それば狙い撃ちして殺すなんちあんまりばい! 人のやることやなか!」

 

 だが男たちは、三枝子の心底からの怒りに応える神経など、まったく持ち合わせてはいなかった。むしろ真逆の反応として、大声で笑いだす性質の悪さを露呈した。

 

「ぎゃっははははっ! なん馬鹿んごつ言いよっとや♡」

 

「せからしかたい! そぎゃんこつ知ったことやなか!」

 

 などと三枝子を嘲笑しながら、構わずイヌワシの回収に取りかかるだけ。

 

「へへっ♡ 猛禽類ば剥製にすりゃあ、物好きな貴族が高こう買{こ}うてくれるけねぇ♡」

 

 さらに開き直る態度で、仲間が死骸をかつぎ上げたあと、弓矢を持つ男が三枝子に言った。

 

「よかや! こんこつば黙っときや! ぬしの顔ば覚えたけ、地元の衛兵なんぞにタレコミばしたら、ただやおかんけね☢」

 

 ご丁寧にも三枝子に弓矢の先端を向ける悪辣ぶり。しっかりと口封じまでもほのめかしてくれた。


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