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『剣遊記[』

第三章 三枝子とひなワシ。

     (5)

 イヌワシが落ちた現場に、三枝子が到着した。そこで鷲が突然落ちた原因を、彼女ははっきりと視認もした。

 

 鷲は無残にも、弓矢で胴体を撃ち抜かれていたのだ。だからそばまで三枝子が近づいても、鷲はピクリとさえ動かなかった。しかしそれでもなお、両足のカギ爪には、たった今狩ったばかりの野ウサギをつかんだまま。またもう一羽も、崖の中腹の木の枝に引っ掛かって死んでいた。ここからは遠目でわかりにくいが、やはり同じような矢が、体に突き刺さっているようだ。

 

「……いったい誰ね……こげなひどかことするんは……♨」

 

 イヌワシ夫婦の死を眼前にして、三枝子はくやしい思いでいっぱい。固くくちびるを噛んでいた。さらにその瞳にはうっすらと、涙もこぼれ落ち始めていた。

 

 実際イヌワシに限らず、繁殖期の猟は法律で禁止をされているはずである。従って禁猟期に弓矢で鳥を撃ち落とす行為は、明白な密猟なのだ。

 

「許せんばい!」

 

 三枝子の怒りは、まさしく本物。それも今までブチのめした痴漢やスケベ男たちなどの比ではなし。

 

 おまけにこれがたとえ密猟でなくても、子育て中の動物を死に至らしめるなど、なにがなんでも同情の余地などまったくなかった。

 

 三枝子はイヌワシの死骸のそばで、ジッと立ち尽くした。ここで待っていれば、今にきっと弓矢を放った下手人どもが、なにも知らずに現われるはずであるから。

 

 そのとおり、まさに案の定だった。


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