『剣遊記[』 第三章 三枝子とひなワシ。 (4) クアーーッ!
「ええっ!」
いきなり空を裂くような叫びがした。その声に驚いて三枝子が大声を上げ、さらに全員が一斉となって、うしろへと振り返った。見ると二羽のイヌワシの内の一羽が、今まさに、崖から転落をしているところだったのだ。
「な、なんがあったと!」
三枝子のさらなる大声に、誰もが答える暇{いとま}もなかった。
キュアァーーッ!
続いて二羽目も、同じようにして地上に落ちてきた。
「きゃあーーっ!」
なにが起こったか皆目わからないまま、今度は高い悲鳴を上げ、三枝子がイヌワシの落ちた地点を目指して、一目散に駆け出した。
「あっ! 三枝子ぉーーっ!」
清美も慌ててあとを追った。もちろん孝治たちも。
三枝子がどうしていきなり走り出したのか――その理由は一目瞭然だった。一行の目の前で突然起きた、イヌワシの不可解な落下――死が発端なのだ。
それにしても、山道を駆け上がる三枝子の俊足は抜群といえた。
「か、彼女、な、なしてあげん足が速いとやぁ!」
「おれかて知らんかったとですよぉ! 三枝子さんがあげんスピードランナーやったなんちぃ!」
荒生田といっしょに、孝治も音{ね}を上げたほど。そのため三枝子ひとりがさっさと先行。仲間たちからはぐれる事態となった。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |