『剣遊記[』 第三章 三枝子とひなワシ。 (14) 「ゆおーーっし! これでやるだけんことはやったようっちゃねぇ✌ ほな、そろそろ出発しよっかぁ✈」
「そうですばい☹ こぎゃんとこで、たいぎゃ時間ば喰ってしもうたけねぇ☺」
女性たち(孝治含む)の会話を、これはこれで珍しく、辛抱強く待ち続けていたらしい。荒生田と徳力のふたりが、今まで座っていた岩から重たそうに腰を上げ、フェニックス探しの再開をうながした。
徳力は清美との付き合いで鍛えられ、とても我慢強くなっているのだろう。また荒生田とて、仮にも未来亭の一員である。だからきっと、未来亭女性陣の性格を、すべて知り尽くしているに違いない。ふたりとも、清美や孝治たちの長いおしゃべりに、ひと言も文句を垂れないでいた。
裕志なんぞは根本的に、言葉を差しはさむ度胸すらないだろうけど。
「こげな山ん中で愚図愚図しちょったら、すぐに夜になっちまうけね☛ 野生の肉食怪物やら死に損ないのグール{食屍鬼}どもが出たら厄介なんやけ♋」
「それもそうっちゃねぇ……うわっち?」
孝治も荒生田のセリフにうなずいた。そのときだった。突然周囲の明るさが、急激に増していく様子を感じ取った。
「うわっち? ど、どげんなっとうと?」
現在は当たり前だが昼間――とはいえ、まるで太陽が急接近したかのようなまぶしさが、山間全体に満ちあふれた――そんな感じがするほどだった。
「……今は確か……秋っちゃよねぇ……これじゃなんか、夏真っ盛り……みたいちゃよ♋」
あとで思い出せば、顔面から火が出る思い。そんな恥ずかしくなるようなトンチンカンを、孝治は思わずつぶやいた。だが幸いにして誰も、今の迷発言を耳に入れてはいなかった。なぜならこの場にいる者全員が、本当の太陽とは真逆である、北の方角を見つめていたからだ。
「ね、ねえ……なんが見えると?」
孝治は口をポカンと開けている友美に尋ねてみた。しかし友美は、空の一点を真剣な眼差しで凝視したまま。代わりに涼子が答えてくれた。
『孝治ったら、相変わらずにぶいっちゃけぇ☠ 北ん空ば見んしゃいよ!』
「えっ……ええっ……うわっちぃーーっ!」
涼子が右手で指差している北の方角から、もうひとつの太陽――なんてはずがない。太陽に勝るとも劣らないほどの光を放ちながら、なにかがこちらに向かって飛んできているのだ。
それが接近すればするほど、全体の輪郭が、さらにはっきりと感じられるようになってくる。光が異常に強い物体なので、なかなか正視がむずかしい状況なのだが。
とにかく、これだけは言えた。
翼を大きく広げ、まるで孔雀か鳳凰の豪華版のような、華麗極まる星屑を散らす長い尾羽根。まさに巨大すぎる黄金色の鳥。
孝治は叫んだ。
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