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『剣遊記[』

第三章 三枝子とひなワシ。

     (11)

 このような、いつもとは全然似合わない感じでいる荒生田を、清美は心底から不思議がっている様子でいた。

 

「あたいは夢でも見とうとやろっか? こぎゃん平和主義んぬしば見たんは初めてばい♋」

 

 その思いは、孝治も同じだった。

 

「いったいこれっち、どげな心境の変化なんやろうねぇ? 先輩がこげな穏健なやり方ばするなんち……☢」

 

 ついでに内心では、やや辛辣的にも考えていた。

 

(でも、最初で最後っちゃろうねぇ、きっと☠)

 

 そこへ涼子が、そっと耳打ちを、孝治の左の耳にしてくれた。

 

『あたし、思うっちゃけど✍』

 

 孝治も小声で応じた。

 

「なんかわかると?」

 

 涼子の耳打ちは、次のような内容だった。

 

『まあ、これはあたしの推測なんやけどね✍ さっきの迷彩服の三人、三枝子さんにやられたっちゅうても、けっこう強そうやったやない♐ それに密猟の罪って、せいぜい罰金程度なんやろ? やけんあいつらすぐにシャバに出てくるけ、荒生田先輩、仕返しば怖がったんやなかっちゃろっか? これがあたしの言い過ぎやったら、ただあとで面倒になるんが嫌やっただけやけ、ここは優しく片付けとくっとかね♠♣』

 

 孝治は即座に、頭を横に振った。

 

「ば、馬鹿んこつ言わんとき! 仮にも先輩は、そげな臆病やなかっちゃけね!」

 

 孝治は涼子の推理とやらを、ムキになって否定した。しかし心の奥底では多少、『それもありかもしれんちゃねぇ……☹』と、密かに肯定したりもしていた。

 

(た……確かにあげな連中と、いつかどっかで再会でもして、それで変な逆恨みばしとったら……すっげえ面倒ばいねぇ☠ やけん、あいつらに変に優しゅうするってことは、もしかしたら荒生田先輩っち、あれでけっこう先ば見る目があるとやろっか?)

 

 やけど、荒生田先輩ほどの剣の実力があったら、本当に連中がお礼参りに来たっちしても、別に怖がる必要はなかっちゃけね――と、孝治は続けて考え直した。しかしやっぱり、面倒臭い話に変わりはないかも。

 

 これらの考え過ぎもすべて、密猟の罰則そのものが軽すぎる法律に原因があるのだろう。そのように結論づけ、孝治はこの問題にはこれ以上、深く言及しないようにした。


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