『剣遊記 番外編X』 第五章 戦い終わって日が暮れて。 (8) さらに続く荒生田の怒声が、その事実を物の見事に裏付けてくれた。
「き、きさん裕志ぃ! ようもオレばたぶらかして酒に眠り薬ば入れて、おまけにこげなボロ小屋に閉じ込めてくれたっちゃねぇ♨♨」
「そ、それはぁ……☃☠」
裕志の苦しい弁解が始まった。
「そ、そやかてぇ……先輩がどげんしたかてバルキムば未来亭まで連れて帰るっちゅうもんやけぇ、こげんしてでもバルキムば先に行かせんと、みんなに大迷惑ばかかってしまうっちゃしぃ……☁☂☃」
「しゃーーしぃーーったぁーーい!♨」
後輩の儚い抵抗など、初めっから鼻息で吹き飛ばす勢いのサングラス😎野郎である。
「そげなんオレがいっちょん先に言うとったろうがぁ! オレは正義の隊長と正義のおやっさんになりたかったっちなぁ! そげなオレの一世一代の晴れ舞台ば、ようも思いっきり台無しにしゃあがってぇ♨ オレはバルキムの頭に乗って、カッコよう北九州に凱旋したかったんちゃよ♨ ついでにバルキムば使こうて、大儲けの絶好のチャンスも、見事に潰してくれたもんちゃねぇ♨」
これは物の見事。本音を堂々とブチ撒けてくれたもの。もちろん裕志は百も承知であったし、静香も薄々話に聞いていた。はっきりと申してこれこそ、荒生田の本性なのだ。
「そ、そげなご無体んこつムチャクチャ言ってぇ!☠☢」
「きゃっ! あたし逃げるだがねぇ☻」
怒りの形相もあらわに、荒生田が裕志に飛びかかる。そこですかさず、自分ひとりだけ、空へと舞い上がるバードマンの静香。実は彼女も荒生田の監禁に協力していた身の上だから、立派過ぎるほどに共犯なわけ。
「ああっ! ズルかっちゃよぉ!」
もはやそれだけの文句を叫ぶ暇があったことさえ奇跡のうち。あとはもうサングラス野郎による、後輩魔術師タコ殴り大会の始まり始まりぃ♪
「わひぃ〜〜っ!」
ポカポカポカポカッと一子相伝拳法さながらの連打を喰らい、たまらず砂浜から駆け出す、小心魔術師の牧山裕志。
「むぅわぁてぇーーっ! 待たんけぇーーっ、もういっぺんバルキムば呼び戻すったぁーーい!」
それをどこまでも追い駆ける、変人戦士の荒生田和志。そんな途轍もなく馬鹿みたいな光景を、安全な空の上からすっかり他人事気分で眺めている、バードマン戦士の石峰静香。このズルい性格は、やっぱり女荒生田の面目躍如といったところか。
「あ〜あ、あのふたり、あれできっと世話ねえってことになって、また元どおり仲良うなって、日本中旅して周るってわけなんのぉ☻ これってあたしの勝手な考えなんだがね、あんなふたりだからこそ、長くてまあず楽しいお付き合いができるってもんかいねぇ?☺」
ここ、静香が見下ろす淡路の海岸線は、白砂青松の輝き。どこまでも広い海原が続き、沖からは超獣バルキムの遠い吠え声が、海上に木霊となって鳴り響いていた。
クォオオオオオオオオオン
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