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『剣遊記 番外編X』

第五章 戦い終わって日が暮れて。

     (7)

「えっ?」

 

 そこは小心な裕志である。その怪音の正体がだいたい判明(?)しているばかりに、弱心臓が大きな鼓動をドキドキッと繰り返した。

 

「ま、まさかやねぇ……☠」

 

 それから恐る恐るの思いで、裕志は小屋を遠くの位置から見つめ直してみた。すると小屋のドアがバァーーンッとド派手な音を立て、内側からいきなり蹴り飛ばされたではないか。

 

 無論中から現われた者は、今さら解説の必要もなし。

 

「くぉらぁーーっ! 裕志ぃーーっ! なしてオレばこげなとこに閉じ込めたとやぁーーっ!」

 

「せ、先輩っ!」

 

 裕志はたまらず悲鳴を上げた。それも道理。掘っ建て小屋の中から飛び出した者は、上半身を太いヒモでグルグル巻きにされ、口には恐らく、自分で無理矢理に外したのであろう。猿ぐつわに使っていた白いタオルが、垂れてブラリと下がっていた。

 

もちろんその人物は、裕志の(怖い)先輩である荒生田に他ならなかった。

 

 しかもこのような有様を見ただけで、サングラス😎野郎が何者かによって拉致――あるいは身柄を不本意に拘束されていた状態は明らか。でもってその拘束犯――つまり下手人なのだが、その前に裕志は、突然現われた先輩に、次のようなセリフを言いたかったのだ。

 

(せ、先輩っ! もう薬が切れて目ぇ覚ましたとですかぁ!? 薬で寝たんば見計らって、到津さんといっしょにここまで運んできたとにぃ!☠)

 

 無論のこと恐ろし過ぎて、とても正直に言えたものではなかった。


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