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『剣遊記 番外編X』

第五章 戦い終わって日が暮れて。

     (5)

「じゃ、じゃあ、バルキム……元気でね……☹☂」

 

 クォォォォン……☂

 

 一応の決心――さらに覚悟もできていた。しかし、いよいよ別れる段ともなれば、自分と同じ人格である超獣の、悲しげな吠え声が、裕志の胸に大きく響き渡るのだ。

 

「い、いや……ぼくかて君と仲良う暮らしていけたらどげんよかっちゃろっかっち思いようっちゃよ☹ そやけどこげな狭か日本やったら、それも無理なんやけね☢」

 

 裕志は泣きたい気持ちを無理矢理、自分の胸の中へと押し込んだ。それから一生懸命、バルキムへの説得を試み続けた。

 

「や、やきー、君は仲間がおるっちゅう大陸の奥で暮らしたほうがよかっちゃよ☞ やけん頼むっちゃけ、到津さんといっしょについて、そこで暮らすっちゃよ☂」

 

 クォォォォォォン!

 

 淡路島の南の海岸で、体格の大き過ぎる違いを超えて見つめ合う、小さな人間と巨大なる超獣。その垣根のない心の交流が、そばで見ている第三者たち――静香と到津にも、大きな感動を与えていた――感じもした。

 

 だけれど時間は、いつまでも存在しないのだ。まずは到津が裕志に尋ねた。長い首を、そっと差し出すようにして。

 

「裕志さん、話決まれぱそろそろ出発するあるね✈ パルキムさんも、そろそろ準備よろしあるか?」

 

 クォォォォン

 

 バルキムもすでに、心の準備は出来上がっているようでいた。そこはさすがに、いつも観念の早い裕志の、特徴的人格の賜物であろうか。

 

「ては行くわや✈✈」

 

 到津が大きな銀の翼をバサバサと羽ばたかせ、砂浜に立つ裕志と静香の前から、ふわりと舞い上がった。

 

 クォォォォン!

 

 またバルキムも、本当に今生の別れの気でいるらしい。海面上に上半身を浮かべた格好で、右腕を空に向けて上げ、海岸にいる魔術師とバードマンの女戦士ふたりに、大きく手を振る動作を見せてくれた。

 

 これでどうやら、バイバイをしているつもりのようだ。

 

 バルキムはこのあと、淡路島から紀伊水道を通り抜け、広い太平洋を泳いで渡るわけだが、この間ずっと、例の立ち泳ぎで進み続けるのであろう。

 

 銀のドラゴン――到津は飛行してバルキムを先導できるから良いとして、これは考えてみればけっこう、難行苦行の旅とは言えないだろうか。

 

 さらに行く先々で、様々な艱難辛苦が待ち構えているだろう。けれど、もはや裕志に行なえることはただひとつ。遥か遠くの日本の地で、バルキムの無事とこれからの幸せを願い続けるだけだった。


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