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『剣遊記 番外編X』

第五章 戦い終わって日が暮れて。

     (3)

 場面は強引に変わって、今度は大阪湾の沖に浮かぶ大きな島――淡路島の南端付近である。

 

 古代、日本国の古い伝承にある伊邪那岐{いざなぎ}伊邪那美{いざなみ}の神様夫婦が日本列島をこしらえたとき、初めて産み落とされた島として知られているが、今回の騒動とはまったく関係のない話なので、ここでは省略。

 

 閑話休題はとにかく、その淡路島の南の端っこ――できるだけ人の目が無いのを条件にして選んだ海岸に、超獣――バルキムがいた。それも今、ガストロキングとの戦いで受けた傷を癒すかのごとく、海水に下半身を浸し、静かに腰を砂浜に下ろしてたたずんでもいた。

 

 その実におとなしそうな姿は、まさに裕志の分身そのもの――と言える感じであった。

 

「ねえ、バルキムさんのケガは治ってんのきゃ?」

 

 バルキムの元へ、静香が白い羽根をパタパタと羽ばたかせつつ飛んできた。

 

 静香のうしろからは銀色の翼を有するドラゴンが続き、その背中に乗っている裕志は青い顔となって、息も絶え絶えの状況となっていた。

 

 相変わらず乗り物酔いに弱い裕志であった。

 

 それからドラゴンは、もちろん到津である。これら三人がそろったところで、おとなしく海水に身を浸けていたバルキムが、そっと顔を上に向けた。このあと「クォン♡」とか細い声で、来訪者たちを迎え入れる仕草を見せた。

 

「はい、もう大丈夫あるね♡ さすかは超獣さんあるわね✌ もうケカ治てピンピンしてるあるよ♪」

 

 バルキム本人(本獣?)はしゃべることができないので、代わりに到津が代弁をしてくれた。

 

 到津は大阪湾での戦闘終了後、神戸市内の大騒ぎが収まらないうちにバルキムをこっそり、この人目の少ない淡路島の南端まで連れてきてくれたのだ。

 

 そのあとで裕志と静香もここまで運んできたのだけれど――あれ? もうひとり誰かいたような気がするんだけど――まあいいや☀ 話を先に進めよう☞☟

 

「そうかい☆ ケガも世話ねえ感じで済んで、まあず良かったんだがねぇ♡♡」

 

 とりあえず味方のキマイラが大事に至らなかったことで、静香が大きく安堵の息を吐いた。しかし裕志のほうはと言えば、これから先の不安が、これまた大きく自分の胸に圧し掛かる気分でいた。

 

「でもぉ……やっぱしこれからどげんしたらよかっちゃろうかねぇ……いくら未来亭の黒崎店長が太っ腹な人やからっち言うたかて、さすがにこげん大きか超獣の面倒は見切れんっち思うっちゃけどぉ……☁☃」

 

「ま、まあ、それもそうなんさぁ☁☁」

 

 静香も裕志のセリフに、反論する材料はないようだ。その理由は裕志にも、なんとなくだが、わかるような気がしていた。なにしろ静香のフィアンセである魚町進一{うおまち しんいち}なる超巨漢の戦士でさえ、今でも充分以上に未来亭の店内では手に余る現実なのだ。これにさらに巨大過ぎる合成キマイラのバルキムまで加わったら、それこそ未来亭の破産。裕志たち自身が、路頭に迷う結果となるだろう。


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