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『剣遊記 番外編X』

第五章 戦い終わって日が暮れて。

     (2)

「……にしてもだんべぇ、あの人まあず、よう生きてたもんだがねぇ♋」

 

「う……うん、そうっちゃねぇ〜〜♋」

 

 そんな成り行きで、戦い終わって日が暮れて。衛兵隊にて展開されている滑稽極まる連行劇を眺めながら、静香と裕志のふたりは、仲良く肩を並べ合っていた。

 

 二大怪獣の蹂躙によって、ほとんど瓦礫の山となっている神戸の市街地を背景にしながらで。しかもこの期に及んで静香のほうは、新たな興味の対象を見つけていた。

 

「でもあたしさぁ、まあず不思議に思ってんのぉ、あのいっからかん(群馬弁で『いい加減』)な魔術師、どうやって命が助かったんだと思うきゃあ?」

 

「う……うぅん……☁」

 

 静香からの問いに、問題の尾田岩と同業である裕志は、ただ両腕を組んで頭を左右にひねるしかなかった。

 

「……ぼ、ぼくにもいっちょもわからんちゃねぇ♋ ぼくかて見よったっちゃけど、あんときの怪獣の爆発はほんなこつ凄かったっちゃけ♋ やけんふつうに考えたらあん爆発に巻き込まれて、絶対に無事には済まんかったっちゃねぇ……まあ、こげな答えにならん答え方しかできんとやけど、とにかく『悪人はシブとかぁ♋』ってとこやろうねぇ☻」

 

「なっからそれで納得するしかないだんべぇ✄」

 

 実際これは、どのように考えても、結論が出ない話であろう。静香もここで、深いため息を吐いて、頭を何度もうなずかせた。

 

 もともとこの物語には、随所随所に御都合主義の要素が、色濃くにじみ出ているもの。だからこれも、その類の内のひとつと言っても良さそうである。

 

「それにしても、なっからがしょうき(群馬弁で『乱暴』)に壊されたもんだがねぇ〜〜☠」

 

 無理に話を(自分自身で)締めさせてから、改めて静香が、破壊された神戸の市街地を見回した。ふたりが現在いる場所は、神戸市衛兵隊詰め所の正面出入り口の前。そこから垣間見える、静香が青春を謳歌したというところの神戸の街は、中心街がほぼ壊滅の有様。それでも怪獣の絶命を知って、避難していた市民たちが、少しずつ戻ってきてはいた。しかし彼らのこれからの再建の苦労を思うと、裕志はなんだか、責任の一端を感じずにはいられなかった。そのため実に申し訳ない気持ちで、文字どおり胸がいっぱいになっていた。

 

 そんな裕志の内心を察しているかのようだった。静香が再び、右横から声をかけてきた。

 

「まあ、あの尾田岩っていっからかん野郎に賠償する金なんか無いけい、それをあたしらに吹っかけられても、これまたまあず無理な話なんだがねぇ☻ ここはあたしらも被害者の一員なんけい、あとは市のエラいさんにおっぱなして、あたしらはもう、こっから行ったほうがええだがねぇ☞✈」

 

「う……うん☁☃」

 

 もろに背中からうしろ指を差されているような気分なのだが、裕志もこれなら、バードマンである静香と同意見。自分たちの責任を全部あの傲慢魔術師に押し付け、早々に神戸の街から立ち去ったほうが、賢明な判断に違いなかろう。

 

 こんなかたちで裕志は静香から、思いっきりに引っ張られる格好。神戸市衛兵隊詰め所の前から、なるべく目立たないように背中を向け、足早に遠くのほうへと消えることにした。


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