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『剣遊記閑話休題編T』

第二章 離れ小島の海の家。

     (7)

「ほらぁ、由香ちゃんかてあげん言いようことやし、孝治もいっしょに泳ぐっちゃよ♡」

 

 友美が由香に応えて立ち上がり、そのついで、孝治の右手を両手でつかんで引っ張った。

 

「うわっち! お、おれもかよぉ……☠」

 

 強引な格好で手を引かれ、孝治も仕方なかぁ〜〜の思いで立ち上がった。それでもいまいち、気乗りがしなかった。

 

「お、おれは、みんなば守る護衛として海に来たっちゃよ! やけん遊んじょるわけにはいかんと……☁」

 

 などと、自分で言ってもさほど意味合いが感じられない面子にこだわるものの、それはやはり、虚しい虚栄心であった。

 

『とかなんとか言っちゃってぇ♡ 孝治かて泳ぎがけっこう達者やなぁい♡』

 

「うわっち!」

 

 孝治はこのとき、『しもうたぁーーっ!』と後悔をした。自分自身の泳ぎっぷりを以前、涼子に思いっきり見せびらかしたことがあったからだ。それに比べれば先輩の荒生田など、思いっきりのカナヅチとして、かなりに有名である。

 

「早よ来{こ}な、こうやけねぇ♡」

 

 孝治の前で海中に腰まで浸かっている由香が、ひと際高い声を上げた。すると海面からいきなり、人が丸かかえするほどの、大きな水の塊が浮上。ウンディーネである由香は、あらゆる液体を自由自在に操れる能力が得意技なのだ。

 

「うわっち! ば、馬鹿っ! やめるっちゃあ!」

 

 そんな大きな水球を目の当たりにした孝治は、即由香の企みを察知。波打ち際で、こちらも大きな悲鳴を上げた。

 

「もう遅かっちゃよ♡♡」

 

 由香の掛け声で、空中に浮かんだ水球が、孝治に向かって飛んできた。

 

「うわっちぃーーっ!」

 

「危なっ!」

 

『孝治っ! ごめんっちゃ!』

 

 友美と涼子が大慌てで、左右に飛び離れた。結果、孝治ひとりが逃げ遅れ、バッシャアアアアアアンンッッと見事、水球の塊を正面から喰らう破目となったわけ。

 

「きゃははははっ♡ おっもしろかぁーーっ♡」

 

 真夏の小島の砂浜で、彩乃(さらにしつこく繰り返すけど、彼女はヴァンパイア)を始め、若い女の子たちの笑い声が、玄界灘一帯に広く大きく木霊した。


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