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『剣遊記閑話休題編T』

第二章 離れ小島の海の家。

     (6)

 孝治はそんな女の子たちが騒いでいる光景を、静かに眺め続けていた。そのついで、先ほどからそばで寄り添っている友美にもささやき続けた。

 

「しっかし、海岸からちょっと離れちょうだけの名無しの小島に誰か知らんとやけど、よう海の家なんか建てたもんちゃねぇ☺ まあ交通の便は、ボート一隻だけが頼りっちゃけど✄」

 

 友美も孝治に応えてくれた。砂浜にうつ伏せで寝た格好をして。

 

「そうっちゃねぇ✍ まあさっきも言いよったけど、ここなら賃貸料かて安かやし、海で付きモンの地元ヤクザのショバ代漁りもなさそうやしね♡」

 

「そげなんがあったら、こんおれが追っ払ってやるっちゃけね♐」

 

 自慢げに鼻を高くした気分で、孝治は今回もしっかりと、持ってきた愛用の中型剣を、対岸を見つめている友美相手に見せびらかした。戦士の魂である愛剣は、どんなレジャーの最中でも、絶対に肌身離さず手放してはならない必需品――アイテムなのだ。

 

『それはそれでよかっちゃけどぉ……☻』

 

 やはり友美といっしょに孝治の左横でゴザの上に体操座りしている涼子が、ここでこそっと声をかけてきた。孝治はすぐに顔を向けた。

 

「なんね?」

 

『あたし、今回孝治に感心ばしよっとよ♡』

 

 意外な涼子の言葉で、孝治は瞳が点の思いとなった。

 

「感心? なんねそれ?」

 

 涼子がそっと、孝治のすぐ横まで身(幽体)を寄せた。

 

『だって、孝治もみんなといっしょんなって、女ん子の水着ば着ちょるんやもん♡』

 

「うわっち!」

 

 とたんに孝治は、今度は顔面赤面化の思いになった。

 

「そ、そげなん……今さら強調せんでもよかっちゃよ! お……おれかて、この期に及んで男モンば着たりするような、往生際の悪か真似はせんけんね!」

 

 涼子のご指摘どおり。孝治もしっかり、女性用の水着を着用していた。ただし、用意をした水着はビキニではなかった。孝治の物は紺色をしたスクール水着であって、色気の点では極めて微妙といえるシロモノであった(マニアは喜びそうだが☻)。またこれは、仲間が全員ビキニばかりでいる中で、唯一のワンピー姿でもあったのだ。

 

 友美でさえも、きちんと黄色地のビキニを着用しているというのに。

 

 よけいな余談ではあるが、今回も涼子は話の始めの発言どおり、いつもの全裸スタイルのまま。むしろ海を背景にして、開放感大いに全開中といった感じか。

 

 それはさて置き、友美が孝治に尋ねた。

 

「でも、よう孝治がそげな水着ば持っちょったもんばいねぇ☞ わたしかて知らんかったとに……まさか女ん子に変わったとき、こっそり用意ばしちょったと?」

 

「ち、違うっちゃよ!」

 

 孝治は慌てて頭を横に振った。

 

「こ、これは律子ちゃんから借りたとばい! 彼女しか頼める人がおらんとやけ……☁」

 

『当然、旦那である秀正くんには内緒やろ?』

 

「うわっち!」

 

 涼子からの鋭いツッコミが入ると、孝治はしゅんとなった思いで、頭をうな垂れさせた。

 

「……そんとおりばい……☹」

 

 和布刈秀正は孝治の男時代からの、大の親友である。それに穴生律子{あのう りつこ}は、彼の愛女房。まさに孝治の頼みは、危険すれすれの線でもあったのだ。

 

 このとき海のほうから、孝治たちに向かって呼びかける声。

 

「ねえっ♡ ずっと浜におらんで、孝治くんと友美ちゃんもこっち来るちゃよぉ♡」

 

 由香であった。彼女を始め給仕係たちは皆、孝治はつい最近まで正真正銘の男だと知っていた。しかし今はなんの違和感も抵抗感もない感じで、同じ女性として扱ってくれているのだ。

 

 それが本当に本心なのかどうかまでは計り知れないのだが、孝治としては、気持ちが痛しかゆしといったところか。

 

「なんか複雑な気分ちゃねぇ〜〜☁」


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