『剣遊記閑話休題編T』 第二章 離れ小島の海の家。 (10) 「それじゃ、気ぃつけてやぁーーっ!」
「行ってらっしゃぁーーい!」
砂浜で朋子や由香、孝治たちの見送る前だった。高須の漕ぐ中型ボートが桃子を同乗させ、ゆっくりと島から離れていった。
緊急の食料買い出しであるが、これで島に残った者たちは、来客である未来亭の面々だけとなっていた。
「でたん凄かぁ〜〜っ☀ 夕方までこん島、ほんなこつわたしたちで貸し切りなんばい!」
能天気な真岐子が、まるで子供のようにはしゃいでいた。実際に精神年齢はそのとおりだと思われるが、その他のみんなも、だいたい同じような感じでいた。
「ねえ! もしかしてこれって、無人島漂流記みたいになるんとちゃうやろっか♡」
「うれしかぁーーっ♡ あたしってこれでも、極限のサバイバルみたいな生活に、実は憧れとったとよ♡」
彩乃と登志子が無邪気に騒いでいる様子を、孝治は『困ったもんちゃねぇ☠』の思いで見つめていた。
「大飯食らいの登志子に、サバイバル生活なんちできるはずなかろうも……それよりやねぇ……☹」
孝治は砂浜で、空を見上げてみた。
「今夜は……なんかヤバい感じがするっちゃねぇ……☠」
「ヤバいって……なんか起きそうなん?」
友美が右横から尋ねたので、孝治は西の空の方角を、右手で指差した。
「見るっちゃよ☁ 黒い雲が出ようけ☁ こりゃもうすぐ雨が降り出すかもしれんちゃねぇ☂ ったく海の天気っちゅうのは、女心みてえにコロコロ変わりやすいけねぇ☠」
「ほんなこつぅ……☁ 女心はよけいっちゃけどねぇ☻」
友美も西の方向を見つめていた。孝治の言うとおり、西の空には不気味な黒い雲が広がっていた。しかし左横に立つ涼子のほうは、孝治をここでもからかってくれた。
『変わりやすいんはこげな場合、山ん天気やなかっちゃね? それに別に台風が来るっちゅうわけでもなかっちゃし、あれくらい大丈夫とちゃう? それに孝治ん口から『女心』やなんてねぇ〜〜☃ はっきし言って、そーとーでたん違和感ばい☠』
「しゃーーしぃったい♨」
ここでいつもなら、もっと大きな反撃を返したいところであった。しかし今の孝治にとってはそれよりもなんだか、妙な胸騒ぎばかりが、心境の中の大部分を占めていた。
「ほんなこつそげんやったら、むしろ良かっちゃけどねぇ……☁」 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |