『剣遊記番外編T』 第二章 逆襲! 山賊団。 (8) 「ほう、目が覚めたようやのしー☀」
そこへ三人(美奈子、千秋、千夏)だけの空間を、ぶち壊すかのごとくだった。野卑な野郎の声が、洞窟の外から聞こえてきた。
「ついに来はったんどすね♨」
この事態をなかば予測していた美奈子は、上半身を座椅子のようにピョンと起き上がらせた。それから不自由な体勢でもがきながらも、千夏を自分の背中に隠し、洞窟の壁際に身をずらした。
千秋も縛られた格好のまま、表情だけは厳しく入り口に向けていた。
「こっちゃ来たらあかんのやで! 来はったらまた、火炎弾お見舞いしますさかいに!」
「へへっ♡ 安心せえや✌ おれたちゃ親分から、おめえらに手出しすんのは厳重に禁止されとんのやからな☢」
美奈子の体を張った警告は、見事に無視。のこのこと洞窟に入ってきた者は、ふたりの男だった。その両名ともに、一度は美奈子の衝撃波で吹っ飛ばされた、鱏毒の子分どもだ。
もっとも親分の顔はともかく、雑魚の面々の顔全部までは、さすがの美奈子も覚えきれてはいなかった。
何度も申しているのだが。
従って毛皮中心である服装から見て、たぶんこないな連中も混ざっとったんかいなぁ――といった程度。だからつい、美奈子はよけいなひと言を、口走ってしまう。
「おまいさんら、誰でっか?」
この瞬間、ふたりの男のうちの右側が、物の見事にブチ切れた。
「ななぁーーっ! あんだけおれたちを痛ぶっとってから、全然覚えてへんって言い張るつもりかい! おめえは覚えてへんでも、おれはしっかり覚えとんのやでぇーーっ!」
ところが右側とは反対に、左側のほうは、まだまだ冷静さを保っていた。
「まあ、落ち着けや☻ てきゃら(和歌山弁で『あいつら』)はいつでも料理できるんやからのぉ⛽」
しかしそれでも、美奈子に対する恨みは、左側もとても深いようでいた。
「そん代わりや✄ 親分からは手ぇ出すんやないって言われとんのやが、裸にしたらあかん、とまでは言われとらんのや⛲ そやさけぇ、今からてきゃらを真っ裸にひん剥いて、わいらをかわいいかわいいしてくれた女魔術師のべっぴんな裸、心ゆくまで堪能させてもらうつもりやからのぉ☻」
「そやなぁ☻ 手ぇ出せん分、おれら欲求不満が溜まっとんのやからなぁ♨」
右側もその言葉に納得した。美奈子にとっては、大きな迷惑なのだが。とにかくこれにて、両者の意見が一致したかたち。洞窟の出入り口を塞ぐ格好で、美奈子と双子姉妹を見下すふたりの山賊の両目は、しっかりはっきりと大きく見開かれていた。ついでに描写を行なえば、眼球に血管が浮き出て、真っ赤に充血もしていた。これは宣告どおり、彼らは美奈子と双子姉妹を裸にしてしまい、それから存分に鑑賞をして、おのれの下品なる獣心に焼き付けるつもりなのだろう。
これが彼らの妄言どおり、手を出さずに見られるだけでも、それはそれで美奈子にとっては究極的な屈辱。さらに加えれば、見ると申している彼らの我慢と理性が、いったいどこまで持続できるものやら。いずれは我慢が簡単に破たんして、手も足も出さずにはいられないはず。
もともと山賊に良心を期待するなど、まさに愚か者の所業。つまり、身の安全の保障など、まったく存在しないのだ。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |