『剣遊記番外編T』 第二章 逆襲! 山賊団。 (7) 美奈子はようやく瞳を覚ました。しかし自分の体は黒衣の上から頑丈そうなヒモで何重にもグルグル巻きに縛られ、おまけに冷たい地べたの上に、うつ伏せの格好で放置をされているようだ。
さらに両手もうしろで結ばれ、完全に身動きができない状態。それでもとにかく、意識が回復してから行なう行動は、周囲の様子をうかがう動作である。
それによるとこの場所はどうやら、冷たい洞窟の中だった。しかしさすがに、和歌山の山中のどこかまでは、この辺りの地理にくわしくない美奈子にはわからなかった。
「こ、ここは……どこなんやろっか?」
ひと言つぶやいてから日光が差し込む方向に瞳を向ければ、やはりここはどこかの山中らしかった。洞窟の入り口から見える範囲に、緑や紅などの木々が連なる光景が広がっているので。
「師匠、目ぇ覚めたようやなぁ☀」
「千秋ちゃん!」
今や聞き慣れている声に振り向けば、千秋も同じ洞窟内で美奈子と同様、体をグルグル巻きにされ、やはり後ろ手に縛られていた。
「もう弟子なんやから、『ちゃん』付けはせんで『千秋』だけでええで☺」
囚われの身でありながら、千秋はとても気丈でいた。このセリフを聞いた美奈子は、なんだか妙に、頼りがいのある気持ちになってきた。
「ほな、次からは『千秋』って呼ばせていただきますわ✍ それより千夏ちゃんのほうは、どないなってまんのや?」
妹である千夏のほうには、その雰囲気と性格から考えて、『ちゃん』付けを続行するようにした。すぐに『千夏ちゃん』から返事が戻ってきた。
「美奈子ちゃぁぁぁん! 千夏ちゃんはぁここなんですうぅぅぅ☟」
千秋よりも少々幼い声(これでも同じ十四歳)に顔を向ければ、千夏もいた。ただし千夏だけは体をグルグル巻きにされてはおらず、後ろ手だけを縛られた状態にあった。
同じ双子でありながら、やはり山賊は、千秋のほうを危険視したのであろう。それでも三人そろって、まったく身動きひとつできない有様。これでは無防備で抵抗不可能なうちに、全員裸にひん剥かれても、不思議ではない状況と言えた。
ところがこれまた不思議な話。そのような乱暴狼藉の形跡は、自分を含めて三人とも、まったく見当たらなかった。とにかく三人そろって傷がひとつもなく、体のどこにも痛みを感じていない様子なのだ。
だからと言って、山賊どもに人間の情があると考えたら、早計となろう。彼らのような粗暴で野蛮な連中が、三人の美味しそうな女性(美奈子は無論であるが、双子姉妹も幼児嗜好者の餌食になるかもしれない)をこのままにしておいて、いつまでも手を出さないなど、絶対に有り得ないからだ。
「なんや、連中の目的は明らかにうちにあったんどすに、千秋と千夏ちゃんまでなんや巻き添えにしたみたいで、えろうすんまへんなぁ☂」
縛られてうつ伏せ姿勢のまま、美奈子は双子に頭を下げる動作で謝罪した。この成り行きはどのように考えても、美奈子への復讐を狙った山賊が、たまたまいっしょにいた千秋と千夏までも、ついでに拉致したとしか思えない状態であったからだ。
「師匠、そんなことはええんや」
するとやはり、千秋が気丈に――さらに前向きな態度で応じてくれた。それから妹――千夏のほうに顔を向けた。
「千夏……ここがどこかわからへんか?」
「そうですねぇ……☁」
千夏はすぐに、洞窟の外へ瞳を向けた。身に迫る危険への対策は、今は後回しだった。それよりも状況と現場の把握が最優先となっていた。
「千秋って、なかなか頭の回転が速いんやなぁ☆」
冗談抜きで、美奈子は千秋に感心した。ここで千夏が、美奈子と千秋に振り返って言った。
「ううん、千夏ちゃんもぉわかんないですうぅぅぅ☁☂」
「千夏ちゃんでも、ようわからへんことがありまんのやなぁ⚐」
美奈子は軽いため息を吐いた。
「そうかいな♣」
しかし千秋は、特に落胆したわけでもない様子。妹に優しい言葉を返していた。
「まあ、ええんや★ それならそれで、別のことを調べるだけやで✍」
この気丈な千秋の言葉のおかげで、美奈子もあまり不安な気持ちにはならなかった。
「とにかく今は、体力の温存が先どすえ✊ 連中かていきなり、うちらに無茶はせえへん、と思いますさかいに⛾✎」 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |