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『剣遊記番外編T』

第二章 逆襲! 山賊団。

     (6)

 この変な状況を、遅れて現われた男が打ち破ってくれた。

 

「なんや、いくら油断したっちゅうたかて、兄さんを負かした魔術師やさけぇかなりのモンかと思うたら、単なるロリコン女やなぁ☻」

 

 入り口から松明に照らされて出てきた男の顔を見て、美奈子は思わず、胸をドキッとさせた。しかもその衝撃は、ロリコン呼ばわりと言う屈辱をも凌駕するほどだった。

 

(な、なんや! まさかっ! そないなこと、あらへんはずや!)

 

 理由は現われた男が、自分の知っているある人物に、とてもよく似ていたからだ。しかし、室内に入って姿格好が鮮明になるとまったく違っていたので、美奈子はほっと、安堵のため息を吐いた。

 

(なんや、人違いやおまへんか♨ こないなときに、ほんま紛らわしいことやで♨)

 

 ついでにこのとき、鱏毒が新参者の名前を呼んでくれた。

 

「おお、舐木野ぉ、そんとおりや☆ この女がこの鱏毒様に、仰山生き恥をかかせてくれよった、とんだいっかなじゃじゃ馬なんや☛ もっともおまえがここにちょうど帰ってきて、そいで助けてくれへんかったら、こないな逆襲かてでけへんかったんやけどなぁ☻」

 

鱏毒が舐木野と呼んだ男――つまりが山賊親分の弟なのだが――彼は全身を装甲鎧で包んだ戦士の姿をしていた。それからなによりも特徴的なのが、派手系の黒いサングラス😎をかけているところ。このために美奈子は、舐木野を『ある人物』だと思い違いをしたのだ。

 

それにしても今は夜なのに、『ある人物』も伊達で黒いサングラスを昼夜など問わずに愛用していたのだが。この男も果たして同類なのだろうか。

 

その舐木野とやらが、自分の兄――鱏毒を相手に、ふてぶてしそうにささやいた。

 

「こない簡単に捕まっとうとこ見たら、オレの出番はなかったようやな☹」

 

やや不満げな口ぶりではあった。それでも口の端にはニヤリと、ゆがんだ笑みを浮かべていた。

 

これに兄である鱏毒が応じた。

 

「おうよ……と言いたいとこなんやが、この女ども、魔術師であるからには油断でけへんからなぁ☢ ここはひとつ、おまえの魔術で眠らせたってほしいわ☕」

 

「わかったわ✌ オレかて出番がほしゅうてうずうずしとったんやからなぁ✊」

 

「魔術やて?」

 

山賊兄弟の会話を聞いた美奈子は、改めて舐木野の顔を見直した。

 

この男、戦士の格好をしてはりながら、なおかつ魔術も使えるんかいな――美奈子の頭に、すぐにピン💡とくるものがあった。

 

「おまいさん……もしかしてなんやけど、魔術戦士でおますんか?」

 

「ご明答っ! でも気づくんが遅かったで✋」

 

いかにも気分良さそうに答えるなり、舐木野が美奈子に左手を――ついでに千秋と千夏には右手を向け、気合いの入った掛け声を発した。

 

「はあっ!」

 

この瞬間、美奈子の意識は消失した。早い話が『眠り』の術。舐木野はやはり、魔術戦士であったのだ。


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