『剣遊記番外編T』 第二章 逆襲! 山賊団。 (4) 得意である変身魔術のお披露目が、一応終了。美奈子は多少の疑問(双子姉妹の不思議)に目をつぶったまま、陽気な気持ちに切り換えて、ふたりに訊いてみた。
「そやなぁ……♠」
姉の千秋が頭を右に傾けて考えているうちに、美奈子は床に落ちている黒衣を手に取り、素早く着込んだ。すると姉よりも妹の千夏のほうが、先に質問をぶつけてきた。
「美奈子ちゃんはぁ、化けるときはぁ、いつも裸さんなんですかぁ?」
「そ、そうどすね……じょうじこうしてますさかい……☀」
さすがの美奈子も、顔がポッと熱を帯びる気持ちになってきた。
変身魔術のふたつ目の欠点。我が身以外は変質不可能であるから、変身するときはやむを得ずとはいえ、必ず脱衣をしなければならないのだ。その問題点をズバリと指摘され、大胆を自認していた美奈子も、少々虚を突かれた気になった。
今は瞳の前にいる相手が幼い姉妹であるから、美奈子も遠慮なしで裸になれたのだ。だが前述したとおり、この場にもしも男性がいたら、美奈子も絶対に、このような無茶をしなかったはず。もっともそれ以前に、これも前述済み。攻撃魔術で出歯亀野郎を吹っ飛ばすパターンであったが。
(まあ、今まで吹っ飛ばしてもうた男衆の数は、百人から先は覚えとらへんのやけどな☢)
本音は一応言わないでおく。それよりも少々言い訳がましい気はするのだが、美奈子は懸命に弁解した。
「……そ、そやさかい、うちはじょうじ、下着も着ておまへんのや♋ なんちゅうたかて、変身にしんどい手間はかけとうないさかい☢ ついでなんやけど、寝るときかてじょうじ裸なんどすえ⛔ それと、白鳥に変身した理由なんどすが、これは大した意味はおまへんのや⛐ ただずっと前に、公園の池で飼われとうたかいらしいコブハクチョウを見て、そのかいらしさと綺麗さに魅了されちゃったんどす……そやさけ、うちって白くて綺麗な動物が大好きなんでおますんや♡♡」
これに千秋が、納得らしい相槌を打ってくれた。
「ふぅ〜ん、そうなんやぁ☆ でもそれってすっごうごっついことやでぇ! 千秋も変身魔術を習いたいもんや! てなもんやさかい、これからあんた……やのうて、これからは『師匠』って呼んでもええか?」
つまりいきなりの弟子入り志願。美奈子は多少面喰らった思いに囚われながらも、前向き気分でうなずいてやった。
「そ、そやなぁ……まあ、おまいさんくらいの歳やったら、今から習えば充分身に付くって思うさかい……そやけど修行は楽やおまへんでぇ♠♣⚑」
「大丈夫さんですうぅぅぅ♡ 千夏ちゃんも魔術さん、習いたいでしゅうぅぅぅ♡」
千夏も明るい顔で返してきた。こちらもどうやら、姉と同じ。見かけは軽そうだが、弟子入りの気になっているようだ。
「それじゃあ千夏ちゃんもぉ、美奈子ちゃんのお弟子さんにぃ、なりますですうぅぅぅ♡」
ここまでとことんおだてられ、美奈子は少々照れ臭い気分になってきた。
いずれは自分自身も、いつの日か弟子を育てる側になるだろうと、思ってはいた。しかし和歌山県の山の中のひとつの村で、いきなりふたりもの弟子を抱える話の展開になろうとは。
これはノストラダムスでも予言不可能な話であろう。
それから美奈子は、うちはまだ、師匠なんてガラやおまへんで――と、とりあえずの定番で言いかけて、そのセリフをゴクリとノドの奥へと押し戻した。理由は自分を見つめる千秋の表情が、笑顔から警戒心を感じさせるものへと変化したからだ。
これは千秋・千夏姉妹と出会ってから初めて見る、笑顔以外の感情表現だった。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |