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『剣遊記番外編T』

第二章 逆襲! 山賊団。

     (3)

 それは姉妹もいつか、どこかの動物園で見た覚えのある、おなじみのコブハクチョウだった。その白鳥が美奈子そのものの優雅な仕草で翼を大きく広げ、華麗なる舞いの姿を披露した。

 

 今現在の状況から考えても、白鳥は美奈子の変身した姿に間違いはなかった。しかも美しい白鳥に変身するところが、いかにも女性らしいといった感じ。それに加えて美奈子は、本気で千秋と千夏を喜ばせようとしていたのだ。もちろん千夏も、本当に大喜び丸出しのはしゃぎよう。

 

「美奈子ちゃん、すっごいですうぅぅぅ♡ 千夏ちゃん、ほんとにぃほんとにぃビックリさんしちゃいましたですうぅぅぅ

 

 変身魔術の威力を前に、さらに無邪気に感動したらしい。美奈子変身の白鳥に、思いっきり抱きついたりをしでかした。

 

「へぇ〜〜っ♡ こら千秋もビックリ仰天! ホルモン焼き百人前やねん♋ あんた、ほんまやるもんやなぁ〜〜♡

 

 千秋のほうも、改めて美奈子に感服している様子の顔だった。

 

 ところで白鳥に変身しているとはいえ、その精神は立派な美奈子である。コブハクチョウはゆっくりと翼を折り畳み、静かに水かきのある両足で姉妹の足元まで近づき、そこで再び白い羽根を広げ直した。

 

(どや? うちって、綺麗でおますやろっか?)

 

 などと心で訴えながら、純白の羽毛に包まれた我が身を、ふたりに存分に見せつけた。これが野生の白鳥であれば、絶対にやらないであろう行動ぶり。すると千夏が、まるで美奈子の心に気づいたかのように、そのものズバリで応じてくれた。

 

「はぁい! 美奈子ちゃん、とってもぉとってもぉ、綺麗さんですよぉ♡」

 

(えっ? うちの言いたいことがわかりまんのけ?)

 

 これには美奈子のほうがビックリ。慌てて千秋のほうに顔を向けた。恐らく口をポカン――もといくちばしをポカンの顔となっているのだろう。ところが千秋がまた、美奈子の訊きたい質問がわかっているかのように、ごくふつうに答えてくれた。

 

「そやねんな✌ 千夏は勘がえろう発達しとってなぁ、人の気持ちがビンビンにわかりまんのやで☻」

 

(この双子って……ほんま只モンやあらへんで♋)

 

 このとき美奈子は改めて、千秋・千夏のふたりに、常人とは異なるなにかを感じ取った。そんな美奈子の気持ちはお構いなし。千夏のほうから、再びキャピキャピと尋ね返してきた。

 

「でもぉでもぉ、どうして美奈子ちゃんはぁ、白鳥さんにぃ変身したんですかぁ? 千夏ちゃん、鳥さんもぉ大好きなんですけどぉ、他の動物さんもぉ大好きさんですうぅぅぅ♡」

 

 この問いに、白鳥の長い首がうしろにのけぞり、頭を左側にひねる動作を取った。これが人間のときであれば、もろに困り顔となっている場面であろう。ここで美奈子の代わりを引き受けてか、千秋が答えてくれた。これまたなにもかも、わかっているかのように。

 

「千夏、無理言うたらあかんがな✋ この人は今白鳥に変身しとんのやから、人の言葉は今はしゃべれへんのやで✄」

 

 確かにこれは、変身魔術の欠点のひとつ。動物に変身している最中は、一般人との意思の疎通が、ほとんど不可能となるのだ。

 

 千秋のセリフは、まるでそのあたりの事情を、とっくに知り尽くしているかのようだった。美奈子はこの事実を頭の中に入れながら、再度翼を折り畳み、もう一度体を発光させた。

 

 その光が消えた跡には、元どおり、全裸の美奈子がそこにいた。

 

「どないでっしゃろか? うちの変身魔術は✌✍」


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