『剣遊記番外編T』 第二章 逆襲! 山賊団。 (2) 「ほな、続けて変身魔術なんでおまんのやけどぉ……ちょっと待ってでおくれやす✋」
火が消えて、行燈の光だけに戻ったところで、美奈子は藁の上から、スクッと立ち上がった。それからなんと、着ている黒衣をするりと、床の藁の上に脱ぎ落した。
「あれぇ〜〜ですうぅぅぅ!」
「ちょ、ちょっと! あんた、ええんかいな! そないな大胆なことしでかしてやでぇ?」
千夏と千秋が、本心からのビックリ顔も当然。なぜなら黒衣を脱いだ美奈子は、その下になにも身に付けていなかったからだ。
「うふっ♡ これは驚かせてしもうたどすなぁ♡」
一糸もまとわぬ姿で双子姉妹の前に立つ美奈子は、まるで童心に帰ったかのように、いたずらっぽく微笑んだ。
京都の名家の生まれである美奈子には、幼少のころから奔放で大胆な性癖がある自分を自覚していた。またその傾向は、けっこう封建的だった家柄を疎{うと}ましく感じ、魔術師の免許皆伝と同時に家を飛び出したときから、一層顕著となっていた(少しだけ性格に名家時代の痕跡は残っているが)。例を上げれば山中をひとりで気ままにさまよっているとき、綺麗な小川、あるいは隠れ湯などを見つけたら、迷わず真っ裸になって、水浴(または入浴)を楽しんだものだった。
もちろん先に、周りにヤローの目がないかどうかを確認してからではあるが。
また、あくまでも同性限定なのだが、人前で裸になるのを臆しないことも、けっこう日常茶飯事にしていた。だから今回、千秋・千夏の双子姉妹の前であれば、美奈子にはなんの遠慮もためらいもなかったわけ。
「あんた……ほんまにええ体しとんやなぁ……それにおっぱい、すっごい大きいで♋ 千秋もうらやましいがな♪」
千秋はひたすら、美奈子のけっこうなボリュームである胸の部分に注目していた。一方で千夏のセリフは、ややピントがズレている感じがあった。
「美奈子ちゃん、いつも裸さんでぇ風邪さん引かないんですかぁ? 千夏ちゃん、とってもぉ心配さんですうぅぅぅ☂」
美奈子はくすっと微笑んだ。
「大丈夫なんやで☺ うちの服には恒久的な保温魔術の効果があるさかい、真冬でも快適に過ごせるようになってまんのや✌ 夏場はちょっとばかし暑うなるんが玉に瑕なんやけどね✊ でも変身魔術を覚えてから、うちって下着を着たことがないんでおますんや⛾」
それから美奈子は裸の姿で床にしゃがみ込み、ぶつぶつと新たな呪文を唱え始めた。
これが美奈子流、変身魔術のお披露目なのだ。
それにしても、小屋の中にいる者は自分以外には年端もいかない幼い双子姉妹だけのためか、美奈子は自分で自覚するほどの、今まで以上の大胆不敵ぶりを感じていた。
(きょうのうちってほんま、サービス精神過剰気味やなぁ☻)
しかし、もし仮にこの場に男性がいたとしたら、そいつはたちまち理性を失い、鼻の下をグゥ〜ンと伸ばすところであろう(もっともその前に、美奈子はそいつを攻撃魔術で吹っ飛ばすであろうが)。そんなある意味挑発的とも取れる姿勢――全裸で体操座りとなると、美奈子の白い裸身が、徐々に陽光のごとく光り輝いていった。
「うっわあああぁぁぁっ! ほんとにしゅごいさんですうぅぅぅ!」
そのあまりのまぶしさに、千夏は瞳を両手で隠していた。また千秋のほうは直視こそ避けているものの、できるだけ瞳を両手で保護しながら、美奈子の変化をジッと見つめ続けていた。
「ほんま……こりゃビッグダイナマイト級やでぇ♋」
やがて光が消えたとき、そこにはもう、美奈子の姿はなかった。代わりに一羽の――全身白色の白鳥が長い首を持ち上げ、白い翼を羽ばたかせていた。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |